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加圧トレーニング
BFR: Blood Flow Restriction
加圧トレーニング(海外では血流制限トレーニング、Blood Flow Restriction Training, BFRと呼ばれています。)は、日本発のユニークな筋力トレーニングの一種です。このトレーニングでは、腕の付け根や脚の付け根部分に専用のバンドを着用し、血流を適度に制限した上で軽い負荷の運動を短時間行います。Journal of Sports Medicine and Physical Fitnessによると、アスリートが従来のレジスタンストレーニングに、加圧トレーニングを加えた際、筋肉サイズの増加と、筋力、パフォーマンスの向上が見られたと発表しています。従来の、高負荷の筋力トレーニングによって得られる効果を、低負荷の短時間トレーニングで得られる可能性があるため、中高年の方の健康法として、また効果的なリハビリテーションの一つとしても注目を浴びています。
この記事では、アスリートやリハビリの専門家も注目するトレーニング法である加圧トレーニングについて、その効果と安全性について見ていきましょう。
加圧トレーニングの効果
加圧トレーニングの生理学的作用機序は完全には明らかではありません。しかし、Frontiers in Physiologyに発表された論文は、血流を部分的に制限することによって筋タンパク質の合成と、mTOR(エムトー)経路が刺激される可能性があるとしています。mTOR経路は哺乳類のシグナル伝達経路で、タンパク質合成の調製に重要な役割を果たしています。また、The Journal of Sports Medicine and Physical Fitnessの研究によると、血流を制限することは男女共において、有酸素運動能力の向上と、骨の健康に役立つ可能性があるとしています。
つまり、加圧トレーニングは、体の一部の血流を制限することで筋肉をプーリング状態にし、軽い負荷でも筋肉に強い刺激を与えることが出来るのです。筋肉は血流を制限されることによって起こる低酸素症から、疲労物質である乳酸が発生して筋肉に溜まります。そのため体は激しい運動をしたと錯覚、その一連の代謝効果に、タンパク質の同化プロセスの増加とタンパク質の分解減少が含まれるため、筋力の増加と筋肥大に繋がるのです。
このように低負荷の短時間トレーニングで、高負荷の筋トレ効果が得られる可能性のある加圧トレーニングは、中高年や、身体に機能的な制限のある方、又はトレーニング初心者など、幅広い層の人々に有効なトレーニング法と言えるでしょう。
加圧トレーニングのリスク
加圧トレーニングは幅広い層の人々に多くの利点がありますが、勿論リスクもあります。考えられるリスクをいくつか挙げてみましょう。
・めまい
・しびれ
・皮下出血
・横紋筋融解症(骨格筋がケガや熱中症、過度の運動などで壊死する病気)
2022年の Frontiers in Physiologyにて発表された研究は、加圧トレーニングが一部の人々に、血圧上昇や血栓症など、心血管系の影響を与える可能性を示しています。そのため、高血圧、慢性の腎臓病、又は糖尿病など、心血管系疾患の既往がある人は、加圧トレーニングを始める前に医師などの専門家と相談することをお勧めします。
また、Cleaveland Clinicによると、以下の人は加圧トレーニングを避けるべきです。
・妊娠中の方
・感染症のある方
・血液凝固に問題のある方
・骨折している方
・ガンのある方
加圧トレーニングを効果的に行う方法
Science and Medicine in Sports によると、低負荷の加圧トレーニングを従来の筋力トレーニングの代わりに行うか、併用することで、筋肉を傷めることなく効果的に鍛えることが出来るとしています。以下、加圧トレーニングを用いる際のいくつかの注意点を挙げておきます。
加圧バンドの使い方
一般的には、腕の加圧バンドは血流を30-50%制限する強さで使用し、脚の加圧バンドは、血流を50-80%制限する強さで使用します。その際、腕の場合はバンドを上腕二頭筋基部、脚の場合は大腿部基部に巻きます。専門のトレーナーや理学療法士が、加圧バンドをあなたに合った強さに調整して巻いた上、彼らの指導の下でトレーニングを行うのが最善です。
Cleaveland Clinicは、このトレーニングの成功のカギは「頑張りすぎない事」、と述べています。加圧バンドを使用する際は長時間の使用を避け、脚、腕それぞれ8-20分までとしています。
脚に加圧バンドを使用したスクワット
人の筋肉の半分以上は脚にあります。脚の加圧と、自重のみでスクワットを5-15分行ってみてください。
腕に加圧バンドを使用した腕立て伏せ
普通の腕立て伏せが無理ならば、膝をつくか、又は立って、「壁たて伏せ」から始めてもオッケーです。5-10分を目安に。
加圧バンドを使用したHITトレーニング
これはかなり強度の高い運動になりますので、5分くらいから始めましょう。
このトレーニングは、個別のアプローチが成功のカギです。専門の加圧トレーナーや、加圧トレーニングの教育を受けた理学療法士と相談し、彼らの指導の下で一緒に行っていくのが最も効果的で安全な方法です。
< Recommendation by Our Experts>
- 低負荷で高い効果を実現可能: 加圧トレーニングは、軽い負荷で短時間のトレーニングでも筋肥大や筋力の向上が期待できるため、中高年やリハビリ中の方、トレーニング初心者に適した方法です。
- 実施には注意が必要: 血流制限が関与するため、心血管系のリスクがある人や妊娠中の方などには注意が必要です。安全に行うためには、医師や専門家との相談が推奨されます。
- 専門トレーナーの指導が鍵: 効果的かつ安全に進めるためには、加圧バンドの正しい使用方法を熟知した専門家の指導の下で行うことが重要です。一人ひとりに合ったプログラムを組むことで、最適な結果を得ることができます。
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