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グルテンフリーダイエットとアスリート
アメリカや欧米ではすっかりおなじみとなったグルテンフリーダイエット。日本でも人気のあるダイエットの一つとして定着してきています。日本語で「ダイエット」は「減量」の意味になりますが、グルテンフリーダイエットの「ダイエット」は痩せるための食事法ではなく「グルテンを含まない食事療法」という意味で、もともとは治療食として生まれたものです。
グルテンは小麦に含まれるたんぱく質の一つで、グルテンフリーダイエットは欧米人に比較的多いとされる、セリアック病というグルテンに対する遺伝性の不耐症の人のための食事療法です。この不耐症のある人は、小麦、大麦、ライ麦に加えて、グルテンが原料の一部として使われている加工食品すべてを避けなければなりません。グルテンフリーダイエットはセリアック病の患者にとって最も安全に症状を改善する方法で、下痢や腹痛などの消化器系の症状を改善し、生活の質を向上させます。
興味深いことに、ここ30年の間でグルテンフリーダイエットは、ビクトリア・ベッカムや、マイリー・サイラス、ヴウィネス・パルトロウなどの有名人から称賛されるトレンドとして浮上し、一般の人々の間にも急速に浸透しました。2024年時点でグルテンフリーダイエットの市場規模は72億8,000万ドルにまで成長し、今後もさらなる成長が予測されます。
これは、一般の人々がグルテンフリーダイエットを、セリアック病患者の食事療法としてだけでなく、「健康のために」「瘦せるために」自発的に取り入れ始めたためです。
今やスーパーマーケットでもすっかりおなじみとなったグルテンフリー食品ですが、この食事法の利点と欠点、そしてアスリートのパフォーマンスとの関連について見ていきましょう。
グルテンフリーダイエットのメリット
今やアメリカ人の1/3が実践しているといわれるグルテンフリーダイエットですが、一般の人がこのダイエットを実践するメリットについて考えてみましょう。
前述したように、セリアック病や小麦アレルギーの人にとってグルテンフリーダイエットは大きなメリットがあると言えますが、グルテンを食べるとどうも少し体調が思わしくないな、という人も試してみる価値があります。更に、アスリートにおいては、過敏性腸症候群やセリアック病の症状のある人、および非セリアックグルテン過敏症の人にこのダイエットは有益です。
グルテンフリーダイエットを実践すると:
- 過敏性腸症候群(IBS)やセリアック病に見られる胃腸症状の改善
- セリアック病や非セリアックグルテン過敏症に見られる炎症誘発腸内抗体レベルの低下
- 腹痛、腹部膨満感および便通の改善(ダイエット開始後、一週間以内に見られることが多い)
- 腸機能の改善、心理的幸福感の促進、うつ病様エピソードや精神障害の減少(ダイエット開始後、四週間以内に見られることが多い)
- 非セリアックグルテン過敏症や一般健康人の疲労、イライラ、関節痛の軽減
- セリアック、IBS、又は非セリアックグルテン過敏症に苦しむアスリートや、その他の人の腸や全身の炎症を軽減し、エネルギーレベルを高める
自己判断でこのダイエットを始めた多くの人々は、このダイエットにより健康になり、気分が良くなったと報告しています。グルテンフリーダイエットは糖質、脂質を多く含む加工食品を避けるため、減量や肌トラブルの改善につながることがあります。
グルテンフリーの加工食品や食材をスーパーで選ぶ際は、原材料名をきちんと確認してください。ソースや調味料など、思わぬ物にグルテンが添加されている場合があります。グルテンフリーのラベルも判断を助ける基準となります。ヨーロッパの法律では、グルテンフリーを商品に表示するには、1㎏あたりのグルテン含有量が20ppm(0.002%)以下であることが推奨されています。
グルテンフリーダイエットのデメリット
余り知識のないまま、いきなりグルテンフリーダイエットを始めると「食べられるものがない」という状況に陥る人が出てくるかもしれません。スーパーなどで販売されている加工食品の多くはグルテンが含まれています。そのため、同じものばかり食べて栄養バランスが偏ったり、食べたいものが食べられず、ストレスになることもあるでしょう。
少数の研究者は、健康な人々やアスリートが医師や栄養士と相談せずにこのダイエットを始めると、タンパク質や葉酸、B12、亜鉛、食物繊維などが不足する可能性があり、更にエネルギー不足や代謝障害に繋がる懸念を表明していますが、これらを証明するには更なる研究が必要です。
アスリートとグルテンフリーダイエット
適度な運動は代謝を改善し、消化を助け、胃腸機能を改善します。しかし、マラソンなどの高強度の持久運動は、下痢、膨満感や排便衝動など、過敏性腸症候群と同様の胃腸症状を引き起こすことがあります。マラソンランナーの38-53%がこれらの症状に苦しんでいると報告されていますが、これらのアスリートは過敏性腸症候群やセリアックの患者ではありません。これらの症状は身体的、機械的、又は心理的ストレスや栄養不足で悪化し、アスリートのパフォーマンスに直に影響します。
マラソンなどの高強度で持久力を必要とするスポーツのアスリートの多くが、何らかの食事療法を取り入れており、その多くはグルテンフリーダイエットによって症状が改善したと報告しています。

まとめ
グルテンフリーダイエットは、セリアック病やグルテン関連疾患を持つ人々の生活の質の向上に大いに貢献しています。これらの疾患を持つ人々は、日常の食生活からグルテンを取り除くだけで下痢や腹痛などの胃腸症状、アレルギー反応や、脳神経系の症状を大幅に改善することが出来るため、このダイエットは彼らにとって必須の選択と言えるでしょう。
上記以外の健康な人やアスリートがグルテンフリーダイエットを取り入れる際には、栄養バランスが崩れたり、穀類に多く含まれる食物繊維が不足する可能性があるので、新鮮な野菜や果物、魚や卵、鶏肉など良質のたんぱく源、ナッツ、玄米やサツマイモなど、グルテンを含まない栄養豊富な食品を意識して選ぶようにしてください。グルテンフリーだからと言って、市販の過度に精製された加工食品やスイーツを摂りすぎると、糖質、脂質の過剰摂取や、繊維不足に陥りやすく、健康増進や減量目的でこのダイエットを行っている人には逆効果となりますので注意が必要です。
< Recommendation by Our Experts>
- グルテンフリーダイエットは、特にセリアック病やグルテン不耐症の方々に有益ですが、健康な人が始める前には栄養士や医師に相談しましょう。
- グルテンフリーの食品を選ぶ際は、原材料を確認し、食事の栄養バランスを保つために多様な食品を取り入れることを心がけましょう。
- 市販のグルテンフリー加工食品は、高糖質・高脂質になりがちなので、健康維持や減量を目的とする際には自然食品を中心に選びましょう。
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