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キヌアダイエットとアスリート
皆さんは、体に良い食べ物と聞いて何を一番に思い浮かべますか?『医食同源』という言葉があるように、健康は毎日の食生活から作られると言っても過言ではありません。日本人になじみ深い体に良い食べ物は、豆類、ごま、わかめなどの海藻類、野菜、魚、シイタケなどキノコ類、そしてイモ類等ですよね。「まごわやさしい」と頭文字をまとめた言葉を覚えて、一日に一度は食べるようにしたい食品の例です。
最近よく聞くようになったのは「スーパーフード」という言葉です。これは1980年代のアメリカ、カナダで使われだした言葉で、はっきりと特定の食品を定義したものではなく、栄養バランスに優れ、高い栄養価を持つ食品、あるいは一部の栄養、健康成分が突出して多く含まれる食品を指します。キヌアはスーパーフードの一つで、近年人気が高まってきています。今回はそのキヌアの歴史、栄養素、そしてその効果について見ていきましょう。
キヌアとは何か?
キヌアは南米アンデス山脈の高地で数千年前から食用に栽培されている、ホウレン草やビーツと同科の植物です。インカ帝国ではトウモロコシと並ぶ重要な食糧だったようです。ヒエ、キビ、アワと同様の擬穀類で、直径2㎜ほどの種子を食用とし、イネ科ではないので雑穀に分類されています。プチプチとした食感が特徴で、よく洗った後、そのまま炊いてご飯のように食べることが出来ます。また、グルテンを含まないため、小麦アレルギーの人でも安心して食べることが出来ます。
NASAが1993年に発表したレポートでは、キヌアをその栄養価の高さ、育てやすさ、使いやすさなどから、宇宙船やスペースステーション、さらには月面や火星などの基地で宇宙食として利用できる食物だとしています。
Journal of the Science of Food and Agricultureによると、キヌアは白米などの穀類と比べてタンパク質やミネラルが豊富に含まれており、植物性食材としては珍しく9つ全ての必須アミノ酸を含みます。また、キヌワは食物繊維が豊富なため、消化機能を改善し、満腹感が持続するとしています。
Journal of Cereal Scienceに発表された研究は、キヌアにはサポニン、植物ステロールと呼ばれるフィトステロール、植物性エクジステロイド等、様々なファイトケミカルと呼ばれる植物性化学物質が含まれていると述べています。これらの化合物は骨格筋の成長に関与している可能性があります。またこの研究では、キヌアが特定の病気のリスクを下げる可能性のある機能性食品の好例であることを述べています。ビタミン、ミネラル、脂肪酸と抗酸化物質が組み合わされた食品であるキヌアは、細胞膜を保護し、脳神経系の機能に良い影響を与える可能性があります。キヌアの高い栄養価は、貧血や骨粗しょう症のハイリスクグループや、糖尿病や肥満など生活習慣病のハイリスクグループにも利益をもたらすと言われています。
他にもキヌアには、様々な健康効果が期待できます。例えばキヌアに含まれる豊富な食物繊維は血糖値の急上昇を抑え、余分な脂肪の蓄積を予防します。そしてビタミン類、タンパク質は美肌効果も期待できます。キヌアには抗炎症作用と抗酸化作用、そして酸化ストレス関連疾患のリスクを下げる可能性があるため、ぜひ日々の食生活に取り入れてほしい食品と言えるでしょう。
キヌアの栄養素のまとめ
・9つ全ての必須アミノ酸を含む高タンパク食品
・豊富なカルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛
・ビタミンB群とビタミンEが豊富
・高濃度のリノレン酸(コレステロール値改善効果のある不飽和脂肪酸)
・グルテンフリー
キヌアは筋肉を作るのに役立つのか?
筋肉の増強には、十分なタンパク質の摂取が欠かせません。Food Reviews Internationalに掲載された論文によると、キヌアはタンパク質の含有量が他の穀類と比べて多く、必須アミノ酸のバランスが牛乳に匹敵するほど良質なため、筋肉増強を目指す際に適した食品になる可能性があると述べています。また、キヌアには抗酸化物質であるケルセチンとケンフェロールという二種のフラボノイドが多量に含まれており、これらの強力な抗酸化作用は筋力トレーニング後の身体の回復を助け、筋細胞の損傷を軽減する可能性があります。
これらの事からキヌアは、アスリートやアクティブな人に適した食品と言えますが、キヌアと筋肉増強の関連については更なる研究が必要です
キヌアはダイエットに役立つのか?
毎日これを食べるだけで痩せる!という食品は存在しません。しかし前述したように、キヌアは必須アミノ酸のバランスが良く、タンパク質を他の穀類よりも多く含み、満腹感を得やすいため全体的なカロリー摂取の減少に繋がり、ダイエットに役立つ可能性があります。また、食物繊維が豊富なキヌアはグリセミックインデックス(GI値)という食後血糖値の上昇の度合い指数が他の穀類よりも低いため、血糖値の急上昇が起きにくく、肥満や糖尿病など、生活習慣病のリスクを下げることが期待できます。
Cleaveland Clinicによると、マグネシウムを豊富に含むキヌアは、肥満と深く関連するⅡ型糖尿病の発症リスクを減らす可能性があるとしています。
また、キヌアに多く含まれる食物繊維はダイエットにも有効です。食物繊維を多く含む食品は体内でゆっくりと消化されるので、満腹感が維持するためです。ハーバード大学医学部によると、毎日30gの食物繊維の摂取で体重減少、血圧低下、インスリン抵抗性の改善に役立つ可能性があるとしています。更に、キヌワの食物繊維はコレステロール値を下げ、消化機能を改善することによりダイエットに繋がる可能性があります。
バランスの取れた食生活にキヌアを取り入れる事は、ダイエットをより効果的にすると言えるでしょう。
まとめ
キヌアは他の穀類よりも多くの食物繊維と良質のたんぱく質を含み、抗酸化作用のある優れた食品です。その癖のない味わいは、洗ってゆでるだけでサラダ、スープなどに取り入れやすく、またお米に混ぜて炊き込みご飯にしても食べやすいです。植物ベースの良質なタンパク源のキヌアは、ぜひ多くの人に取り入れてほしい食材です。ただし、キヌアがアスリートにとって特に有益であるかを判断するには、更なる研究が必要であると言えるでしょう。
< Recommendation by Our Experts>
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バランスの取れた食事の一環としてキヌアを活用する: キヌアは、必須アミノ酸を含む優れたタンパク源であることから、日々の食事にバランスよく取り入れることで、アスリートに必要な栄養を補うことができます。ただし、一つの食材に偏らず、他の栄養豊富な食材と組み合わせて摂取することが重要です。特に、ビタミンやミネラルが豊富な野菜や健康的な脂肪と組み合わせることで、より効果的な栄養摂取が可能です。
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運動後の回復食としてキヌアを利用する: キヌアに含まれる抗酸化物質や優れたタンパク質は、筋力トレーニング後の回復に役立つ可能性があります。運動後の食事として、キヌアを含むサラダやスープを摂ることで、筋肉の修復や疲労回復が促進されるでしょう。特に、ケルセチンやケンフェロールといった抗酸化フラボノイドが、筋細胞の損傷軽減を助ける可能性があるため、運動後のリカバリーを意識した食事に活用することをお勧めします。
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アスリートとしての持続可能な食生活を考慮する: キヌアは栄養価が高いだけでなく、環境への負担が少ない持続可能な食材としても注目されています。アスリートはパフォーマンスだけでなく、持続可能な食生活を考えることも重要です。地球環境に配慮した食材を選ぶことで、個人の健康だけでなく、地球全体の健康にも貢献することができます。キヌアを取り入れることで、食生活改善と環境への配慮を両立させる一助となるでしょう。
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< Reference >
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