Physio Academia:
Evidence-Based Article
X線・MRIは何を教えてくれるのか?
― 画像診断を「信じすぎない」ためのリハビリ思考 ―
病院でX線やMRIを撮り、
医師から「骨と骨の隙間が狭いですね」「いわゆる bone on bone です」と言われた瞬間、多くの人はこう感じます。
「この画像が、今の痛みの原因なんだ…」
そして、その前提のまま治療やリハビリが始まります。
ところが、数週間、時には数か月経っても症状が改善しない。
このようなケースは、臨床現場では決して珍しくありません。
その理由のひとつは、画像診断が“機能”を直接教えてくれるものではない という事実にあります。近年の研究でも、X線やMRIを過度に「真実」として扱うことの危険性が指摘されています(Aguilar et al., 2022)。
画像診断は万能ではない
CTやMRIはしばしば「Donut of Truth(真実のドーナツ)」と呼ばれます。診察や触診では判断が難しいとき、画像がすべてを明らかにしてくれるという期待が込められた表現です。
しかし実際には、画像診断は非常に優れたツールである一方、万能ではありません。例えば脊椎外傷に関する国際研究では、X線のみで正確に骨折を分類できた割合は43.4%にとどまりました。CTを追加することで精度は向上しましたが、MRIを加えても治療方針、特に手術の要否が大きく変わることはほとんどありませんでした(Rajasekaran et al., 2017)。
この結果は、画像が「重要な情報を与える」一方で、「それだけで臨床判断が完結するわけではない」ことを示しています。
画像上の異常=痛み、ではない
もうひとつ重要な視点があります。
それは、画像で見つかる“異常”は、痛みのない人にも非常に多く存在するという事実です。
変性所見や関節裂隙の狭小化、椎間板の変化などは、無症状の人にも頻繁に見られます。Deyleら(2005)は、「診断画像で見つかる病変は、必ずしも症状と結びつくものではなく、必ず全体的な臨床評価の中で解釈されるべきである」と明確に述べています。
つまり、画像は“状態”を示しても、“痛みの原因”を直接示すとは限らないのです。
熟練したクリニシャンは、画像をどう見ているのか
興味深いことに、整形外科分野に精通したクリニシャンは、画像を決して機械的には評価していません。Agustssonら(2018)の質的研究によると、熟練した理学療法士は画像所見を「単独で」判断材料にすることはほとんどなく、患者の動きや症状と照らし合わせながら、その所見が“正常な動きを妨げているかどうか”という視点で解釈していました。
彼らにとって画像は「答え」ではなく、臨床所見を深く理解するための材料のひとつに過ぎません。
「今の痛み」と「根本原因」は一致しないことが多い
臨床では、「症状が出ている場所」と「問題の本質」が一致しないケースが多々あります。
例えば腰痛の場合、マッサージや徒手療法で一時的に痛みが軽減することは珍しくありません。しかし、深部体幹筋の機能低下や運動制御の問題が残っていれば、症状は容易に再発します。
膝の痛みも同様です。X線で「骨と骨が当たっている」と説明され、注射や薬で痛みが落ち着くことはありますが、実際には大腿四頭筋やハムストリング、下腿筋群の機能不全や負荷分配の問題が根本にあるケースが非常に多いのです。
このように、画像は「結果」を映していても、「なぜそうなったか」という機能的な原因までは教えてくれません。
画像診断とリハビリの正しい関係
X線やMRIは、重篤な疾患を除外し、構造的な情報を得るうえで不可欠な存在です。しかし、リハビリテーションが本質的に扱うのは「構造」ではなく「機能」です。
どの動作で破綻が起きているのか。
どこで力がうまく伝わっていないのか。
どんな代償動作が起きているのか。
これらは、画像だけでは決して分かりません。
だからこそ、画像は信じるものではなく、理解して使うものなのです。
まとめ
X線やMRIは、現代医療に欠かせない強力なツールです。しかし、それらは「痛みの答え」を直接示すものではありません。画像所見は、必ず臨床評価や動作評価と統合して解釈される必要があります。
患者としては、画像に過度に恐怖を抱かず、
臨床家としては、画像に思考を縛られないこと。
それが、科学的で機能的なリハビリテーションへの第一歩です。
< アスリート・指導者が覚えておくべき原則 >
✔ 画像所見は単独で判断せず、必ず症状・動作・治療反応と照らし合わせて解釈しましょう。
✔ 痛みの原因と根本的な問題は一致しないことが多く、機能評価が回復の鍵となります。
✔ 患者には画像の意味を正しく説明し、不必要な不安を与えないことも重要です。
< Reference >
- Aguilar, Camilo, and Richard Gunderman. “The Donut of Truth.” Journal of the American College of Radiology 19, no. 8 (2022): 992–93. https://doi.org/10.1016/j.jacr.2022.04.004.
- Rajasekaran, Shanmuganathan, Alexander R. Vaccaro, Rishi Mugesh Kanna, et al. “The Value of CT and MRI in the Classification and Surgical Decision-Making among Spine Surgeons in Thoracolumbar Spinal Injuries.” European Spine Journal 26, no. 5 (2017): 1463–69. https://doi.org/10.1007/s00586-016-4623-0.
- Deyle, Gail D. “Musculoskeletal Imaging in Physical Therapist Practice.” Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy 35, no. 11 (2005): 708–21. https://doi.org/10.2519/jospt.2005.35.11.708.
- Agustsson. “Diagnostic Musculoskeletal Imaging: How Physical Therapists Utilize Imaging in Clinical Decision-Making” http://nsuworks.nova.edu/hpd_pt_stuetd/72/


