足関節捻挫

Ankle Sprain

捻挫とは、靭帯を損傷した怪我のことです。
足関節捻挫は歩行時や運動時、足を捻ってしまった時に起こり、その際に靭帯を伸ばしてしまう、もしくは断裂してしまうことがあります。下肢のスポーツ傷害で最もよくみられる怪我とされています。足関節捻挫からの復帰は怪我の程度によりますが、一般的には2週間程度が多いと報告され、深刻な怪我では完治まで9ヶ月から1年かかることもあります。73%の足関節捻挫が、その後再捻挫を繰り返していると報告されていて、その多くが筋力やバランス感覚が十分に戻っていない場合に起こります。

    woman injured her ankle

    症状

    足関節捻挫をした場合、主な症状は以下の通りです。

            • 痛み
            • 腫れ
            • 捻挫をした足で立ったり歩くことができない
            • ズキズキする痛み
            • 足首がかたくなって動かしにくくなる
            • 力が入れにくく、足首が弱く感じる
            • 立った時に足首が不安定に感じる

    ほとんどの足関節捻挫で、損傷した靭帯のあたりに痛みを感じます。足首が受傷直後に腫れたり、痣ができたりすることもあります。足首を触ったり動かしたりすると痛みを感じます。深刻な捻挫の場合、捻った瞬間にバチッと言うような靭帯が切れる音が聞こえることもあります。

     

    診断/評価

    診断の際には、怪我の既往歴、受傷機転、荷重できるかどうか、骨に痛みがあるかどうかなどの質問をしていきます。オタワ足関節ルールに従い、画像診断を用いて骨に損傷がないかどうかを確認することもあります。MRIを使用することはごく稀で、深刻な靭帯損傷の場合に医師から必要とされることもあります。診断の際には、受傷後48時間以内よりも、4−5日程度経ってから診断する方が正確な診断結果になりやすいと報告されています。

    • 外観
      • 腫脹がみられることが多い
      • もし内出血があり、触診もしくは靭帯ストレステストが陽性な場合、その靭帯の部分断裂を伴っていることが多い
    • 触診
      • 損傷した靭帯のあたりに痛みがある
    • 可動域
      • 可動域制限がある
    • 荷重
      • 加重して歩行することが困難な場合、骨折を疑う必要がある
    • スペシャルテスト
      • 前方引き出しテスト”Anterior Drawer Test”:(+)=前距腓靭帯の緩み
      • 踵骨傾斜テストTalar Tilt Test:(+)=踵腓靭帯の緩み
      • スクイーズテストSqueeze Test:(+)=脛腓靭帯結合部の痛み


    足首の関節のつくりから、足首を内側に捻っておこる外側捻挫の方が起こりやすく、最も一般的な捻挫となります。これは足首の外側の靭帯(ATFL, CFL, PTFL)の損傷を引き起こし、その損傷の度合いによって外側捻挫はGrade 1-3 までで評価されます。足首を外反、そして回外するような捻挫では脛腓靭帯結合部の損傷を引き起こします。

    <Grade 1>

    靭帯の繊維のストレッチ(肉眼で見える断裂を伴わない)。軽めの腫脹と、触診での痛みはあるが機能や安定性の低下は見られない。 

    <Grade 2>

    靭帯の部分断裂と、中等度の痛み、腫脹、触診での痛みがある。軽度から中度の機能と安定性の障害がある。

    <Grade 3>

    靭帯の完全断裂と関節包の破裂があり、重度の痣、腫脹と痛みが見られる。重度の機能障害と安定性の低下が見られ、荷重ができず足を引きずらずに真っ直ぐに歩くことができない。

     オタワ足関節ルール ~Ottawa Ankle Rules~

    オタワ足関節ルールは、骨折の可能性があるかどうかを決定する場合に使われるべきであるとされています。もし患者がくるぶしの骨に痛みがあり、触診でも外果の後方6cmもしくは内果後方6cmのエリアに痛みがある場合、第五中足骨基部、もしくは舟状骨に痛みがある場合、もしくは受傷した側の足に荷重ができない場合に足首のX-RAYを必要とするべきというものです。

    オタワ足関節ルールは特異度よりも感度の方が高く、骨折の可能性があるかないかという判別をするのに向いていますが、骨折があるという断定をするために使うものではありません。

      治療法

      応急処置ではPOLICE (Protect, Optimal Loading, Ice, Compression, Elevation)が推奨されています。これは、受傷箇所の保護、荷重の調節、冷却、圧迫、挙上の五つの基本的処置のことです。
      以下はその説明もしくはその後の処置についてです。

      • 適切な荷重に調整;松葉杖などで部分荷重に調整するか、歩行可能ならブーツなどでサポートをし、自分で移動できるようにすることで早期回復を促す。最長10日間までの短期的なギプスによる固定などは、深刻な靭帯損傷に対してはバンテージによる圧迫よりも効果的であるとされている。
      • 圧迫;患部に圧迫を加えることで腫脹を防ぎ緩和する。コンプレッションブーツやバンテージなどで圧迫する際は、患部を心臓より高い位置に挙上することで循環を促すようにする。
      • ブレース;炎症期を過ぎ歩行可能であれば、半固定用のブレースを装着し保護することが推奨されている。テーピングの方がより靴にフィットしやすいが、実際には15分間高強度の運動をするだけでその効果は40−50%失われていると言われている。ブレースの方がおよそ70%の確率で再発予防に効果があると報告されている。
      • 可動域(ROM)回復エクササイズ;早期から痛みのない(もしくは痛みが少なく耐えられる)範囲内で関節を動かすことで、可動域の回復につながる。炎症期の腫れた関節にはその損傷部を治すために血液、血漿が溜まっているが、関節を動かすことでポンプの役割となり、その血液を押し戻し、早く腫れを緩和することにつながる。さらに酸素や栄養のある新しい血液を患部に送り、組織の回復を促進することができる。
      • ストレングストレーニング可動域が回復したら、徐々に荷重をかけた状態でのエクササイズに移行していく。足を地面につけた状態でのエクササイズの方が固有受容器(身体の位置感覚や運動などの神経伝達をする部位)により働きかけ、早い回復を促すことに繋がる。部分荷重でのエクササイズが問題なくできるようであれば、自重でのバランストレーニングに移行、ジャンプ、そしてランニング等に強度を上げていく。
      • その他の治療;運動療法と組み合わせていくことで相乗効果を得られることができるが、超音波、レーザー、電気治療などの物理療法だけではあまり効果が得られないことが報告されている。
      • 手術;他の治療法がうまくいかなかった場合、もしくは脱臼などを伴う深刻な靭帯損傷の場合に行うこともあるとされる。Grade 3の深刻な靭帯断裂を含む場合に、復帰後の関節の不安定性が残ってしまうことも多いため、アメリカンフットボール選手などは早急に手術をしてしまうことも少なくないが、基本的には時間をかけ、機能的かつ保守的な治療を勧めることが多いとされている。

        競技復帰

        組織の回復を待たずに復帰を焦ると、その後再捻挫をしやすくなったり、痛みが長引いたりします。きちんと足首の機能回復を得て競技復帰できることを心がけましょう。

        スポーツ特有の動きを含むトレーニング

        ある程度軽いジョグやランジ、ジャンピングなど、痛みがなく動けるようになり機能が回復してきていたら、接触のないドリルから、そしていつでも練習をコントロールできるような環境下でスポーツ特有の動きを入れていきます。また、ディフェンスよりもオフェンスの動きの方がリアクションで動くことが少なく、安全に取り入れていくことができるので、その順番も調整していきます。

        競技復帰の際には、選手が不安なくプレーできる状態で、受傷エリアの機能制限の回復と、さらに心肺機能や体力がほぼ受傷前と同等であるレベルまで戻っていることが推奨されています。受傷以前の90%くらいの強度まで戻るのが理想とされています。

        また、復帰の準備ができているかどうか確認するために、ファンクショナルテストを用いて評価することが推奨されています。シングルレッグバランステスト、Y-バランステスト、T-テストなど、もし受傷前のテストスコアがあれば比較することができます。

         

        予防

        予防に最も効果があるのが、固有受容器能力に働きかけるバランストレーニングであるとされています。例えば、目を瞑っての片足バランス、ディスクに乗ってのバランストレーニングなど。競技復帰後も、トレーニングを継続することで再発のリスク軽減につながります。多くのバランストレーニングは自重で場所も選ばないものが多いので、自宅でのホームエクササイズとして取り入れるのも効果的であるとされています。以下の点は再発予防としてその他勧められている事です。

        • 運動の前にはきちんとウォームアップをすること
        • その運動に見合った靴を履くこと
        • 必要であればブレースやテーピングなどで保護すること
        • 健康な体重を維持すること

          ~ Reference ~

          • GUIDE: Physical therapy guide to ankle sprain. Choose PT. https://www.choosept.com/guide/physical-therapy-guide-ankle-sprain. Published December 18, 2015. Accessed October 12, 2022
          • Delahunt E, Bleakley CM, Bossard DS, Caulfield BM, Docherty CL, Doherty C, Fourchet F, Fong DT, Hertel J, Hiller CE, Kaminski TW, McKeon PO, Refshauge KM, Remus A, Verhagen E, Vicenzino BT, Wikstrom EA, Gribble PA. Clinical assessment of acute lateral ankle sprain injuries (ROAST): 2019 consensus statement and recommendations of the International Ankle Consortium. Br J Sports Med. 2018 Oct;52(20):1304-1310. doi: 10.1136/bjsports-2017-098885. Epub 2018 Jun 9. PMID: 29886432.
          • D’Hooghe P, Cruz F, Alkhelaifi K. Return to Play After a Lateral Ligament Ankle Sprain. Curr Rev Musculoskelet Med. 2020 Jun;13(3):281-288. doi: 10.1007/s12178-020-09631-1. PMID: 32377961; PMCID: PMC7251008.