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足の捻挫

実際はどうするのが一番いいのか?

足首の捻挫は筋骨格系のケガで最も一般的なものです。殆どのケースでは足首を捻ったり、ねじる、または変な角度に曲げられた際に外側靭帯が損傷して起こります。関節を安定させ、一定方向への過度の動きを防ぐ役割をするのが靭帯です。捻挫はこの大切な働きを担う靭帯が、強制的に最大可動域を超えた時に起こります。

研究によると、膝のケガに次いで足首の捻挫は、アスリートやスポーツ愛好者の間では二番目に多いタイプのケガです。このシステマティックレビューでは、足首の捻挫はバスケットボール、バレー、サッカー等のチームスポーツや、コートゲームで特に多いことがわかりました。Dohertyらのメタアナリシスでは、バスケットボール等の屋内スポーツで足首捻挫のリスクが最も高く、統計的に、1000回の練習で、7回の発生率が報告されています。更に、重度の捻挫ほど再発率が高く、重度の足首捻挫を経験したプレーヤーが捻挫を再発する率は70%を超えると述べています。

足首の捻挫と骨折の見分け方

足首のケガが筋肉を傷めたものか(Strain)、骨同士を結ぶ靭帯を捻る等して痛めたものか(Sprain)、または足首の骨の骨折なのか(Fracture)を見分ける方法はいくつかあります。捻挫の最も一般的な症状は痛み、腫れ、あざ、不安定さ、圧痛や可動域の制限、関節がぽきぽき鳴る感覚等ですが、これらすべての症状が現れるとは限りません。

一方足首の骨折は突然の鋭い痛み(捻挫時よりも、もっと耐え難い痛み)や、明らかな変形(骨折部の脱臼等)、患側に体重をかけられない、あざ、腫れや圧痛等があり、捻挫の時とは少し異なる症状が出ます。しかし、最終診断は医療機関での精密検査と、レントゲン、超音波検査やCT、又はMRI等で行います。

骨折

足首捻挫の管理方法

PRICE プロトコル

PRICEプロトコルは、従来のRICEプロトコルに「PROTECTION」(保護)を加えて更新されたものです。足首の捻挫などの急性のケガの際、最初の24-72時間に患部の更なるダメージを防ぐため、PRICEプロトコルを専門家は薦めています。PRICEプロトコルの詳細は以下の通りです。

Protection: プロテクション(保護)
患部の悪化を防ぐために、松葉づえを使って患側足首に体重がかかるのを制限したり、一定期間患部を固定、保護します。

Rest: レスト(安静)
治癒を促進するために休息は不可欠です。スポーツ生理学者はそのために「相対的安静」を薦めています。これは負傷した関節の一定度の動きは制限しないもので、完全に患部を固定して全く動かないようにする絶対的安静と異なり、日常生活の活動はある程度行いつつ、ケガした部位に無理な負担が掛からないように活動レベルを調節することです。

Ice: アイス(冷却)
寒冷療法として知られるコールドセラピーは、痛みや腫れを軽減させることがわかっています。捻挫した部位にアイスパックを当てる応急処置は、炎症に対処する際に一番簡単で一般的な方法です。注意する点は、凍傷を防ぐためにアイスパックの使用は一回15分以内に抑え、アイシングセッションを繰り返す際は毎回1-2時間の休憩をはさんでください。

Compression: コンプレッション(圧迫)
これは外部から患部に、弾性包帯を巻くなどして圧迫することです。圧迫により患部の腫れを最小限に抑え、サポートします。きつく弾性包帯を巻きすぎると圧力で軟部組織が壊死する可能性があるので、程よい張力で巻くのがこつです。

Elevation: エレベーション(挙上)
患部を心臓より高い位置に置くことで腫れや痛みを軽減し、回復プロセスを促します。負傷後の24-48時間は患側の足首を予備の枕などで上げることをおすすめします。

 

アイシング

 

POLICEプロトコル

POLICEプロトコルは、従来のRICE及びPRICEプロトコルよりもはるかに効果的な、筋骨格系のケガをマネジメントするための最新の応急処置アプローチと言われています。

Protection: プロテクション(保護)
保護はケガを負った直後に大切なステップで、負傷した組織の更なる悪化を防ぐために患部の動きをある程度制限することです。弾性包帯やスプリント等で不必要な動きを防ぎます。

Optimal Loading: オプティマルローディング(最適な負荷)
最適な負荷とは、治癒過程の早期から適切な活動を促すことで、一般的にメカノセラピー(ストレッチ、抵抗運動、徒手療法、装具療法、テーピング、牽引、超音波療法等)が使用されます。患部に最適な負荷をかけることで筋力を維持し回復を助けます。

Ice: アイス(冷却)
痛みや腫れを軽減するために患部を10-15分程度アイスパックで冷却します。前述したように凍傷を防ぐため、アイスパックは布で包むなどし、長時間の使用は避けてください。

Compression: コンプレッション(圧迫)
弾性包帯などを使用して腫れや内出血を抑制します。

Elevation: エレベーション(挙上)
PRICEプロトコルで述べたように、患肢を心臓よりも上にあげることで患部への血流を緩やかにし、腫れを抑えます。

PRICEとPOLICEプロトコルは、どちらがいいですか?

POLICEプロトコルはPRICEプロトコルの最新改良版と言え、急性筋骨格系損傷の応急処置マネジメントに広く推奨されています。早期から適切なレベルの活動を促す、最適負荷という新しい要素を組み込むことで筋力を維持し、長期間の安静による合併症の可能性を最小に抑えることが出来ます。

Erdurmusらによって行われた、アンカラ大学救急医学科にて2020年から2021年にかけて実施された比較実験では、109人の足首捻挫患者において、PRICEプロトコルとPOLICEプロトコルをそれぞれ使用した治療経過を比較しました。その結果をアメリカ整形外科の、足と足首のスコアを用いて測定した結果、POLICEプロトコルで治療したグループは、PRICEプロトコルを使用したグループよりも迅速で、より効果的に回復したと結論付けています。

早期治療

安静ではなく、早期からの適切なレベルの運動がより良い?

Greenらは、足首の捻挫に対する機能リハビリテーションの効果を調べるために、比較実験を行いました。その結果、RICEプロトコルに加えて足首の前後運動などの理学療法を受けたグループは、RICEプロトコルのみのグループよりも少ない治療セッションで、足を痛み無く背屈させることが出来ました。更に、RICEプロトコルのみを受けた対照群と比較して、動きの範囲と歩幅に大きな改善が見られました。Tranらによる別の研究でも、早期からの適切なレベルの運動は足首の捻挫治療に不可欠な要素であると述べています。

筋骨格系のケガに対するコールドセラピーやアイシングの効果は?

アイシングは、急性筋骨格系損傷に対するPRICE及びPOLICEプロトコルの重要な要素の一つです。凍結療法の鎮痛、抗炎症効果は古くから確立されてきましたが、神経筋制御に対する悪影響が懸念されていました。多くのアスリートはアイシング直後に試合に復帰したり、リハビリやエクササイズを行うため、筋肉の反応が鈍ることは望ましくないからです。

Thainらによって行われた比較実験では、アイシングは動的な神経筋の制御に悪影響を及ぼさないため、リハビリテーションを開始する以前の急性期に使用するには安全であると結論付けています。Bleakleyらによって行われた別の研究では、間欠的に凍結療法を受けた患者は、標準である20分間の凍結療法のみを受けた患者と比較して、足首の痛みに有意義な改善が見られたことを明らかにしました。

従って最新のエビデンスは、足首の捻挫はPOLICEプロトコルを使用して安全に管理できることを示しています。但し足首の骨折やその他、筋骨格系にダメージが無いことを確認するために、医療機関で専門家のチェックを受けることをお勧めします。

< Recommendation by Our Experts>

  • 早期診断を受ける:足首を捻挫した可能性があると感じたら、まずは医療機関で診断を受けましょう。捻挫と骨折の症状は似ていますが、治療法は異なります。専門家による診断で、適切な処置を受けることが重要です。
  • POLICEプロトコルを活用する:捻挫の応急処置では、最新の研究が支持するPOLICEプロトコルを活用しましょう。保護、最適負荷、冷却、圧迫、挙上を組み合わせて、より迅速で効果的な回復を目指せます。
  • 無理をせず段階的に運動を再開:捻挫後は安静を保つだけでなく、段階的に適切な運動を取り入れることで再発を防ぎます。無理に活動を再開せず、医療専門家が指導する適切なリハビリテーションを行いましょう。

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