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筋力トレーニングと筋肥大トレーニングの違い
みなさん、筋トレはやっていますか?
筋トレに興味はあるし、やったほうがいいのはわかっているけれど、「ムキムキになりたくない」「やり方がわからない」又は「効果的にトレーニングする方法がわからない」等、様々な理由で筋トレをためらう方もいらっしゃると思います。しかし、筋トレは正しい方法さえ身に着ければ、メリットだらけといっても過言ではありません。今回は、筋トレの「筋力トレーニング」と「筋肥大トレーニング」の違いを解説し、あなたにぴったりのトレーニング法を見つけるお手伝いをしたいと思います。
筋トレは、新陳代謝の向上、体重コントロール、骨密度の改善など、健康を維持するのに役立ちます。また、年齢に関係なく始められ、自分のペースで行うことが出来ます。そこで質問です。あなたのトレーニングのゴールは何ですか?「筋肉を強くする」ことですか?それとも「筋肉を増やして身体を大きくする」事でしょうか?
一般的に筋力を上げるトレーニングを「筋力トレーニング」と言い、筋肉を増やすトレーニングを「筋肥大トレーニング」と言い、それぞれの目的に適したトレーニング方法があります。順に見ていきましょう。
筋力トレーニングとは ~ Strengthening ~
筋力トレーニングは、「発揮できる力を増やす」ことを目的とします。筋肉が増えれば筋力も勿論向上するのですが、過度な筋肥大は身体の可動域を狭めたり、体重が増加するため、競技によってはデメリットになることがあります。そのため体重が軽いほうが有利な競技では極力体重を増やさずに筋力を向上させることがカギとなります。
National Academy of Sports Medicine (NASM)によると、筋力は強度が高いほど向上する傾向があるため、高強度で低回数の負荷設定が効果的です。85-100% 1RM(レペティションマキシマム)、すなわち1-5回のレップで限界となる負荷程度が適しているとされています。
筋力トレーニングには骨密度の増加、カロリー消費アップ、身体機能の改善等、多数の利点があります。また、ケガの予防や、一般的なパフォーマンスの向上にも貢献します。Strength and Conditioning Journalにて発表された研究では、週3の筋力トレーニングでサイクリングとランニングのパフォーマンスが大幅に向上したと発表されています。
筋肥大トレーニング ~ Hypertrophy ~
筋肥大 (Hypertrophy)とは、筋肉のサイズそのものを大きくすることです。筋肥大と聞くとボディビルディングの選手をイメージしがちですが、アメリカンフットボールやラグビーの選手など、関節や骨を外部の衝撃から守るために行う場合もあります。
Current Opinion in Physiologyにて発表された研究では、筋肥大とは筋繊維内のタンパク質が膨張する事、としています。この膨張がやがて繊維断面積と筋肉全体の成長に繋がります。
あなたのトレーニングのプログラムが筋力の増加につながるか、それとも筋肉の肥大に繋がるかはトレーニングプログラムの様々な要素が関わってきます。たとえば、
・強度
・レップ(反復数)
・レスト(休憩)
・セット
・エクササイズの種類
等です。NASMによると、筋肥大を誘発するには、中程度の負荷で複数のセットを繰り返し行うことがいいとされています。この場合、1RMの75-85%、つまり7-12RM(7-12レップほどで限界に達する程度)の重さに重量を設定し、6-12回のレップを行うと考えてください。
Strength and Conditioning Journalの研究によると、ドロップセット、フォーストレップ、ヘビーネガティヴ等、筋肥大に適したトレーニングテクニックがあるようです。
ドロップセットとは、ウエイトの反復挙上が限界回数(オールアウト)に達したところでウエイト重量を30-40%落として、すぐに(インターバルなしで)限界まで再度ウエイトを挙上させるサイクルを3-4回繰り返すトレーニングテクニックです。
フォーストレップとは、ウエイトの挙上が限界に達した時点で補助者(スポッター)の力を借りてウエイトの挙上を手伝ってもらうことで、限界回数から更に数レップを追加して筋肉を強く追い込むトレーニングテクニックです。
ヘビーネガティヴとは、ネガティヴ動作、つまり筋肉が伸びる動き(例えばダンベルを下す動作、腕立て伏せの身体を下す動作など)を行う際、ポジティブ動作を行う際よりも高負荷をかける筋トレの事です。ネガティヴトレーニングで扱うことのできる重量はポジティブトレーニングの1.2-1.4倍と言われており、より高負荷の筋トレが可能になります。
ただし、筋肥大トレーニングを行う際に、疲労困憊の限界状態にまで身体を追い込むほどのトレーニングを行う必要があるのかについては議論の余地があります。
筋力トレーニングと筋肥大トレーニングの違い
前で述べた通り、この二つのトレーニングはその焦点が異なります。筋力トレーニングは発揮できる力を増やす事に焦点を当てますが、筋肥大トレーニングは筋肉そのものを大きくすることが目標です。
Current Opinion in Physiologyに掲載された研究によると、筋肥大は量をこなすこと、つまりより多くのセット、より高いレップを行う等、トレーニングの総量が大切です。トレーニングの負荷を徐々に増やす事で筋肥大を促進し、重量やトレーニングの難易度を少しずつ上げていくことで、筋肉は成長するための刺激に適応していきます。
通常、筋肥大トレーニングは異なる種類(多様性)のトレーニングの組み合わせで構成されます。American Council on Exerciseによると、バーベルやダンベルを使い、異なる筋肉を刺激する複合的なマルチポイントエクササイズは大きな代謝効果をもたらし、筋肥大を促す可能性があるとしています。更に、特定の筋肉や関節に焦点を当てたマシンも効果的です。
一方、筋力を向上させるトレーニングは高重量で、複合エクササイズを中心とし、筋肉全体をバランスよく鍛えることが大切です。
しかし、Journal of Strength and Conditioning Researchに掲載された研究は、筋肥大トレーニングと筋力トレーニングの分類が過度に単純化されている可能性を示唆しており、どちらのタイプのトレーニングも、筋力の向上並びに筋肥大につながる可能性があるとしています。
Journal of Strength and Conditioningに掲載された他の研究でも、高負荷のトレーニングが1RM(ワンレペティションマキシマム)値の向上により効果的であるという考えを支持しています。ただし、筋肥大はあらゆる負荷範囲で達成することが可能な様です。
まとめ
筋力と筋肥大は関連しています。発揮できる筋力は基本的に筋肉量に比例します。つまり、筋肉が大きい人は筋繊維が多く、より多くの力を生み出すことが出来、筋力の増加に繋がる可能性があるからです。例えば、筋肥大を目的に正しいトレーニングを実施すれば、筋力も同時に伸ばせますし、その逆もまた真なり、というわけです。
勿論、アスリートとしてそれぞれの競技パフォーマンスアップを目指す場合は、扱う負荷やインターバルの長さを調整する必要があります。筋力トレーニングと筋肥大トレーニングをうまく組み合わせ、基本に忠実に、回数および負荷を徐々に上げていきましょう。そして様々なトレーニングのバリエーションを試してみましょう。筋トレをあなたの生活ルーティンに取り入れて、代謝の良い、健康で疲れにくい身体を手に入れましょう。
< Recommendation by Our Experts>
- 個々の目的に合わせたトレーニングプランを作成する: 筋トレを始める際は、まず自分の目的を明確にすることが重要です。筋力向上を目指すのか、筋肉のサイズを大きくするのか、あるいはその両方を目指すのかを考え、その目的に合ったトレーニングプランを作成しましょう。筋力トレーニングを優先する場合は、高重量低回数を基本にし、筋肥大トレーニングを重視するならば、中程度の重量で高回数を目指すと良いでしょう。
- 適切な回復と栄養を心がける: トレーニングは身体にストレスを与えるため、筋肉の成長や筋力の向上には十分な休息と適切な栄養が不可欠です。たんぱく質を中心にバランスの取れた食事を心がけ、睡眠をしっかりとることで、トレーニング効果を最大化しましょう。これにより、筋肉の修復や成長が促進され、疲れにくい健康な体が手に入ります。
- バリエーションを持たせてトレーニングを続ける: 同じトレーニングを続けていると、体が慣れてしまい効果が薄れることがあります。定期的にトレーニング内容を変え、異なる筋肉群を刺激することで、身体に新しい刺激を与え、成果を維持しましょう。多様なエクササイズを取り入れることで、筋肉のバランスを改善し、ケガの予防にもつながります。
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