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子供の運動能力を伸ばすエクササイズ
野球界の大スター、ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手、テニスの大坂なおみ選手、ゴルフの松山英樹氏、フィギュアスケートの坂本香織選手、パラ水泳界期待の星、鈴木孝幸選手など、世界の様々なスポーツ分野で日本人選手が活躍しています。
スポーツを楽しむ元気いっぱいな子供に育ってほしい、というのは小さなお子様を持つ親の願いですよね。世界を舞台に活躍するスポーツ選手をテレビなどで見て、将来プロスポーツ選手になりたい、と夢見る子供を持つ親御さんも多くいらっしゃるのではないでしょうか?
ここで一つの疑問が残ります。勿論親としては、安全に楽しく行えることが第一条件ですが、子供が幼い時期から基礎的運動能力を養い、将来どのスポーツを選んだとしても十分な準備が出来ているようにしてあげるには、どのようなエクササイズが子供に良いのでしょうか?
お子さんが将来、どのスポーツを選ぶかは、親にも、当の本人にもなかなかわからないことが多いものです。ただ、どのスポーツを選んだとしても、本人に基礎的な運動能力があれば、そのスポーツを学び、スキルを上げていくうえで大きな助けとなります。子供の年齢に応じて適切に設計、計画された運動プログラムは子供たちの基礎的な運動能力やスキルを向上させ、将来、本格的に一つのスポーツを習得する際にとても役立ちます。
今回は子供の運動能力を安全、かつ効果的に向上させるエクササイズや、運動プログラムについて見ていきます。
どのような運動が子供の運動能力を伸ばすのにいいのか?
基礎的な活動:走る、跳ぶ、投げる
研究によると、走る、跳ぶ、投げるなどの活動は就学前および小学生の運動能力、協調性、そして速さを大きく向上させることがわかっています。(Oganisyan et al., 2024; Rata et al., 2020) これらの活動は多くのスポーツの基盤となるため、アスリートを夢見る子供たちが、楽しみながら繰り返すことで、運動能力を伸ばしていく良いスタートポイントとなります。子供たちが、楽しく、またやりたい!と感じるような遊びの要素を組み込んだ活動にすることがポイントです。例えば「色おに」、「どうぶつごっこ」、「玉入れ」、など、年齢に応じて発展させていきましょう。
筋力トレーニングとコンディショニング
筋力トレーニングとコンディショニングエクササイズは、子供の年齢と成熟度に併せてプログラムを組みます。腕立て伏せ、スクワット、プランクなどの自重運動は基礎的な筋力を培います。子供の筋力トレーニングとコンディショニングのトレーナーの監督下で、レジスタンスバンドやプライオメトリックエクササイズを行うことで、敏捷性、パワーやバランスを向上させることが可能です。(Long et al., 2024)
プライオメトリックエクササイズとは、瞬発力の向上を目的としたエクササイズで、ボックスジャンプやバービージャンプなどがあります。筋力トレーニングとコンディショニングエクササイズを通して子供たちは、自分の身体の動きをコントロールすることを学び、身体能力が向上します。
専門のアスレチックプログラム
IAAFキッズアスレチックプログラムは、国際陸上競技連盟 (World Athletics, 旧 IAAF) が開発した子供向けの陸上競技教育プログラムです。遊びの要素を組み込んだ競技やチーム活動を通して、安全に、かつ楽しく総合的に子供の運動能力(協調性、スピードおよび筋力)を育成するように特別に設計されています。
「楽しみながら運動能力を伸ばす」事が目的で、陸上競技の入門としてだけでなく、子供の心身の健全な成長を総合的にサポートする点が特徴です。 (Čillík & Willwéber, 2018)
スピード、筋力、投てき
スピードドリル、筋力エクササイズ、そして投てきに焦点を置いた計画的なエクササイズプログラムは、測定可能な身体能力の向上が認められています。 (Toledo Sánchez et al., 2021) これらの運動は、スポーツ習得の基礎となるのみでなく、子供たちが規律を学んだり、運動する事自体に愛着を持ち、楽しむことを助けます。
子供が避けるべき運動は?
殆どのエクササイズは、正しい指導監督の下で行えば安全と言えます。しかし、いくつかの活動は子供に不必要なリスクをもたらす可能性があります。以下に、注意すべき点を挙げます。
ヘビーリフティングとパワーリフティング
適切な指導監督の下で行われるウエイトリフティングが、骨の成長に悪影響を与えるという証拠は殆どありませんが、子供の関節や筋肉の発達に過度のストレスを与える可能性があるため、一般的に幼い子供には勧められません。
ヘビーリフティングとパワーリフティングは筋肉量を増やしたり、より重い重量を持ち上げたりすることに焦点を当てていますが、これらの運動はケガに繋がる可能性が大きい上、成長期の子供には適していません。
「避ける」事の大切さ
リスクの高い活動を避け、年齢に適した運動を、楽しみながら行うことで子供のやる気を保ち、ケガの可能性を最小限に抑える事が出来ます。子供の成長、発達に適した安全な活動に焦点を当てることで、私たち親は子供が運動能力の基礎を築くのを助けることが出来ます。
結論
子供の運動能力を伸ばすのに複雑なプログラムや高価な器具は不要です。走る、跳ぶ、投げるなどのシンプルな活動と、年齢に応じた筋力トレーニング、そしてIAAFキッズアスレチックのような、子供が楽しみながら体力を向上出来る良質のプログラムを組み合わせることで、子供の身体能力は大きく向上します。
親としての役割は、子供にとって不必要なヘビーリフティングや、その他のリスクの伴う活動を避け、協調性、スピード、そして筋力を向上させる運動を優先するように導いていくことです。
すなわち私たち親が出来る事は、お子さんが安全かつ効果的なエクササイズのルーティンを学び、楽しみながら運動能力を伸ばしていける環境を整えてあげることです。基礎的な身体能力が身についていれば、子供が将来どのようなスポーツを選んでも、楽しく習得し、スキルを上げていくよい基盤となるでしょう。
ポイントは、一つのスポーツに備える事ではなく、あらゆるスポーツに対応できる基礎的なスキルをしっかりと身につけさせてあげる事です。
< Recommendation by Our Experts>
- 楽しさを優先: 子供が運動を楽しむことが、長続きする秘訣です。遊びを取り入れたエクササイズを通じて、運動の楽しさを感じさせてあげましょう。
- 年齢に合わせた運動を選ぶ: 子供の発達段階や年齢に適した運動を選び、安全で効果的なプログラムを提供することが大切です。リスクの高い活動は避け、基礎的な運動能力の向上を目指しましょう。
- 多様性を重視する: 特定のスポーツに偏らず、さまざまな運動を経験させることで、基礎的なスキルを養い、どのスポーツにも対応できる柔軟な基盤を築いてあげましょう。
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< Reference >
- Oganisyan LM, Kosakyan AV, Smbatyan VA. THE INFLUENCE OF ATHLETIC EXERCISES ON THE DEVELOPMENT OF PRESCHOOL CHILDREN MOTOR ABILITIES. Published online 2024:40-50. doi:53068/25792997-2024.1.11-40
- Rață BC, Rață M, Rață G. The Influence of Exercises in Athletics on Teaching Speed and Coordination in 7-8-Year-Old Children. journal. 2021;21(2):5-24. doi:29081/gsjesh.2020.21.2.01
- Long C, Ranellone S, Welch M. Strength and Conditioning in the Young Athlete for Long-Term Athletic Development. HSS Journal®: The Musculoskeletal Journal of Hospital for Special Surgery. 2024;20(3):444-449. doi:1177/15563316241248445
- Čillík I, Willwéber T. Influence of an exercise programme on level of coordination in children aged 6 to 7. jhse. 2018;13(2). doi:14198/jhse.2018.132.14
- Toledo Sánchez M, Mato Medina OE, Prieto Noa J, López Pérez JP. Efectividad del entrenamiento de atletismo en las capacidades físicas condicionales de los niños y adolescentes. REMCA. 2021;4(3):167-173. doi:62452/2pxrw427