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フォームローラーどう効くのか

みなさんは「筋膜リリース」という言葉を聞いたことがありますか? 最近よく話題になっている「筋膜リリース」とは、筋肉にゆっくりと穏やかな圧力をかけることで筋肉や筋肉を包む筋膜の癒着や硬さを解消し、血流を改善して柔軟性や可動域を向上させる療法です。筋膜リリースは外傷や瘢痕、炎症、神経圧迫や反復的動作により、筋膜組織が硬くなったり癒着している人に有効と言われています。

理学療法士、カイロプラクター、スポーツ医、アスレチックトレーナーや自然治癒力を重視するオステオパシー医らにより治療が行われることもありますが、セルフケアによる筋膜リリースは、日々の忙しいスケジュールの合間に、誰もが気軽に行える便利な方法としてより一般的になってきています。

今回はセルフケアで筋膜リリースを行う際に最も一般的となっている、このフォームローラーを使用する際の注意点と、効果について見ていきましょう。

フォームローラーとは

フォームローラーは、臨床とフィットネスの両方の場で理学療法士らに多く使用されているツールで、筋膜リリース、セルフマッサージやストレッチに使用される円筒形の道具です。表面が滑らかで、優しい刺激を与えるものや、でこぼこがあり、より深い部分にアプローチするタイプなど様々なものがあります。

いくつかの研究は、フォームローラーの使用により、運動後の筋肉痛の軽減、関節可動域の拡大及び運動後のパフォーマンスの向上を示唆しています。一方で、フォームローリングに有益な効果は殆ど見られなかったと述べる研究もあります。

フォームローリング
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フォームローラーは身体にどのような効果があるのか

フォームローラーの正確な作用機序はまだわかっていませんが、有益な効果としては、機械的、神経学的、物理学的、そして心理的なメカニズムに起因しています。

フォームローラーで筋膜リリースを行うことにより、筋膜の癒着をほぐし、柔軟性を回復し、筋膜同士の滑りを改善し、筋肉の動きをスムーズにします。そして、筋肉に圧をかけることにより筋の緊張が緩和され、血流の促進や、疲労物質の排出を促します。また、トリガーポイント(筋肉の硬結)を圧力により緩和し、痛みを軽減します。更にフォームローラーの使用により副交感神経が活性化するため、リラックス効果やストレス軽減に役立ちます。

関節可動域(ROM)の拡大

ウォームアップの一つとしてフォームローラーを使用することにより、股関節、膝関節および足首関節の可動域が短期的に、統計学的に有意に拡大したという研究がいくつか報告されています 。これは、3-5回のセッションで、30秒-1分間行うというものです。この際、筋肉のパフォーマンス低下は見られませんでしたが、疲労の知覚に目に見える変化がありました。これは、圧迫による筋肉や神経への刺激で一時的に疲労感が増したためで、ウォームアップ中の正常な反応と言えます。研究では、フォームローリングに併せてストレッチを行うことで、可動域により良い効果が出たと述べています。

筋肉の柔軟性の向上

フォームローラーで自己筋膜リリースを行った長距離ランナーは、梨状筋、大腸筋膜張筋および内転筋の伸長に効果的であると述べています。これは、フォームローラーが筋肉の柔軟性を高めるのに効果的である事を証明しています 。

このような筋肉の柔軟性の向上は、特に長距離ランナーに有益と言えます。

運動後の筋肉の回復

研究によると、フォームローラーの使用により、運動後の急性及び慢性の筋肉痛の軽減が見られたと述べています。 研究では、この現象はフォームローラーが筋肉ではなく、損傷した結合組織に働きかける特性によるものだと述べられています。また他の研究では、フォームローラーが運動による筋損傷を軽減するのにも効果的であると発表しています。

フォームローラーを使った筋膜リリースの欠点

拮抗筋群とは、特定の動作を行う際に主動筋群と反対の動きをする筋肉群の事です。例えば肘を曲げる際には上腕筋が主動筋となり、上腕三頭筋が拮抗筋群となります。

ある研究では、筋肉トレーニングのセット間に、拮抗筋群にフォームローラーを使用すると、最大反復筋パフォーマンスが低下したと述べています。最大反復筋パフォーマンスとは、筋肉が繰り返し動作を行う際の最大限のパフォーマンスを指し、筋持久力や筋力の持続性の評価に用いられます。  更にセット間に120秒以上フォームローリングを行うと、力を連続的に生産する能力が低下し、全体的なパフォーマンスの低下をきたすと述べています。

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フォームローラーに関する研究の問題点

    • フォームローラー使用に際しての普遍的なプロトコルやガイドラインが存在しないこと
    • フォームローラー研究の際、対象者がアスリート、アクティブな人、レクリエーション程度の活動の人から、全くトレーニングを受けていない人までまちまちだったため、結果に一貫性が無いこと
    • サンプルサイズと方法論のばらつき、およびそれに伴う結果に一貫性が無いため決定的な結論を出すのが困難であること
    • 長期的なフォローアップを伴う研究が無いため、フォームローラーの有効性と潜在的なリスクを完全に理解できていないこと

フォームローラー使用時に推奨されるプロトコル

フォームローリングは運動開始前のウォームアップとして、また運動後のクールダウンの一環としての使用に適しています。ただし最大の効果を得るには、セット間のレスト時の使用は避けましょう。

以下、推奨されるプロトコル例になります:

1. 運動前

運動開始前に筋肉群当たり30秒-1分のフォームローリングを3-5回程度、短時間行いましょう。これにより、筋力パフォーマンスの向上、関節可動域の改善、そして筋肉柔軟性の向上が期待できます。

2. 運動後

運動後、フォームローリングを5-10分程度行うことは運動後のリカバリーに役立ちます。筋肉痛の軽減、リラクゼーション効果、そして血行促進により、痛んだ結合組織等の修復が期待できます。

3. 頻度

フォームローリングはアスリートには毎日、ジムなどでカジュアルにエクササイズする人々には週3-5回程度の使用を勧めます。

4. セット間休息時の使用

セット間休息時にフォームローリングを行うと、最大反復筋パフォーマンスが低下し、継続して力を生成する能力が低下する可能性があるため、フォームローラーの使用は避けましょう。

まとめ

フォームローラーを使用する筋膜リリースは、関節可動域の改善、筋肉痛の緩和、筋柔軟性の向上など多くの利点があります。

フォームローリングによる機械的刺激が中枢神経系に伝わることで副交感神経が活性化し、疼痛調節経路を介して疼痛を軽減します。これにより、血流増加、炎症軽減、筋緊張緩和が促進され、筋肉の回復が加速されます。

しかし、フォームローラーの過度の使用や、セット間の使用は、最大反復筋パフォーマンスが低下するなどのリスクがあるためお勧めできません。

現在のところ、フォームローリングはプロのアスリートやジムでカジュアルに運動する人の両者にとって、クールダウン時のリカバリーのための使用よりも、ウォームアップの一環としての使用が推奨されます。ただし、明確なガイドラインを確立し、長期的利点と潜在的リスクを理解するには、更なる良質の研究が必要なようです。

< Recommendation by Our Experts>

  • ウォームアップとクールダウンでの適切な使用
    運動前には、各筋肉群に対して30秒から1分程度、3-5回のフォームローリングを行うことで、筋力パフォーマンスや関節可動域の改善、筋肉柔軟性の向上が期待できます。また、運動後には5-10分程度のフォームローリングを行うことで、筋肉痛の軽減やリラクゼーション効果、血行促進によるリカバリー効果が得られます。

  • セット間の使用を避ける
    フォームローラーを筋力トレーニングのセット間休息時に使用することは避けましょう。これにより、最大反復筋パフォーマンスと継続して力を生成する能力が低下する可能性があります。

  • 使用頻度の調整
    アスリートには毎日のフォームローリングが推奨されますが、カジュアルに運動する人々にとっては週3-5回の使用が適切です。過度の使用は避け、適度な頻度でフォームローリングを取り入れることで、効果を最大化し、リスクを最小化できます。

< Reference >

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