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クレアチンサプリと
アスリートのパフォーマンス

クレアチンは、筋肉のエネルギー供給をサポートするアミノ酸の一種で、スポーツパフォーマンスの向上のために使用される、天然の物質です。体内では、毎日約1gのクレアチンが腎臓、肝臓、そして膵臓で合成され、主に骨格筋に蓄えられます。クレアチンは肉や魚など、食事から摂取することも可能ですが、アスリートがクレアチンを、食事のみから効率的に摂取することは難しいため、サプリメントが広く支持されています。

この記事では、200年以上に渡る研究に基づき、アスリートのパフォーマンス向上サプリメントとして最も支持されている、クレアチンについて見ていきます。

クレアチンの働きと効果

クレアチンのサプリメントは、ウエイトリフティングや短距離走等、高強度で瞬発力が必要なスポーツのパフォーマンスを向上させ、筋力、パワー、筋肉量を高める効果があることが広く認識されています。 (Wax, 2021; Cooper, 2012)

ここで、クレアチンがパフォーマンスを向上させるメカニズムについて見ていきましょう。

クレアチン

筋肉の収縮には、アデノシン三リン酸(ATP) が、リン酸を放出して、アデノシンニリン酸(ADP) に変化する際に発生するエネルギーが使用されます。しかし、体内のATP量には限りがあるため、運動を持続させるには、分解されたADPを、すみやかにATP へ再合成させる必要があります。その際に、クレアチンがリン酸と結合したクレアチンリン酸が、ADPと反応し、エネルギー源となるATPが再合成されます。つまり、クレアチンサプリメントにより、体内のクレアチン量が増えることで、筋肉を動かすエネルギーを、より長い間維持することが出来るのです。

持久力運動への影響はやや不明確で、体重のわずかな増加につながる可能性があるといわれています。(Demant, 1999; Williams, 1998) また、筋肉量が増加することに関しては、レジスタンストレーニング(無酸素運動)の際、クレアチンサプリのエネルギー供給サポートにより、トレーニングを長く続けることが出来る結果として、タンパク質合成と筋肉形成に影響を与える事が関連していると考えられています。(Farshidfar, 2017; Chiliback, 2017) 加えて、運動中や運動後の疲労軽減と回復のサポートに、クレアチンが有効とされる研究もあります。更に興味深いことに、クレアチンは加齢とともに減少する中高年者の筋肉量や筋力を高める、又は維持できる効果があると示す研究もあります。(Chilibeck, 2017)

クレアチンは筋肉だけではなく、脳や神経細胞にも蓄えられているため、そのエネルギー代謝効果による脳の記憶、知力の向上や、神経症状の改善など、スポーツのパフォーマンス以外の分野でも関心が高まっています。

ただし、クレアチンのサプリメントに対する反応は個人によって異なり、中には「ノンレスポンダー」と呼ばれる、サプリの量に関わらず、パフォーマンスに変化が見られない人が一定数存在します。

腎臓

クレアチンのリスク

クレアチンは、健康な成人が用法、用量を守って使用する限り、一般的に安全とされています。Guingand (2020)は、クレアチンを使用した女性に有害な転帰は見られなかったと述べ、これは健康な個人に有害な影響は見られなかったとするPoortmans (2000)およびKim (2011)らの研究結果とも一致しています。

クレアチンは最終的に、体内でクレアチニンという代謝物になって腎臓から排泄されるため、クレアチンサプリメントの高用量の摂取は、腎臓機能に負担が掛かります。よってKim (2011) は、既に腎疾患のある人や、腎機能障害リスクがある人の、高用量のクレアチンサプリメントは、腎機能の低下を招く恐れがあると警告しています。これは、腎機能障害リスクのある人へのクレアチンサプリメント使用に注意を促すDanavi-Davari (2018)の研究と一致しています。

クレアチンのサプリメントは、健康な人には一般的に安全であるようですが、腎機能に問題のある人は注意が必要です。クレアチン摂取の長期的、および潜在的なリスクの更なる研究は、特に高齢者や腎疾患既往のある人々にとって、とても重要であると言えるでしょう。

クレアチンの効果的な摂取法は?

クレアチンは前述したとおり、アミノ酸の一種で、体内で合成することも、食事から摂取することも出来ますが、加熱に弱いため、アスリートが食事のみから必要量を摂ることが難しく、サプリがよく使用されます。クレアチン・モノハイドレートは、クレアチンサプリの最も一般的な形態です。クレアチンのサプリメンテーションには、

・ローディングフェーズ(増やす段階)

・メンテナンスフェーズ (維持段階)

の二段階があります。ローディングフェーズでは、筋肉中のクレアチン量を増やすために、普通、一日当たり体重一キログラムに対して、約0.3gの高用量を5-7日間摂取します。(Hall, 2013) その後のメンテナンスフェーズでは、クレアチンの体内量を維持するために、一日当たり体重一キログラムに対して、約0.03gの量を摂取します。(Mesa, 2002) このプロトコールは、高強度で瞬発力を必要とするエクササイズを含む、様々なタイプの運動において、パフォーマンスが向上することが一貫して報告されています。(Bemben, 2005)

クレアチンを摂取するタイミングとその効果に大きな関連性は無いとする研究もありますが、ローディングフェーズでは、クレアチンを運動後に摂取することで、筋肉が効率的にクレアチンを貯蔵できると示す報告もあります。

また、クレアチンは主にインスリンの作用で筋肉中に素早く取り込まれるため、インスリン分泌を促す糖質と併せて摂取する、あるいはプロテインサプリと併用するのも有効です。なお、クレアチンを摂取すると、筋肉中に水分を引き込みます。よって、クレアチン摂取中は、細胞外の水分不足による筋肉の攣りや、肉離れを防ぐためにも、意識的にたくさん水分を摂る事をお勧めします。

まとめ

クレアチンのサプリメントを考えている人は、その効果と、起こりうるリスクを検討した上で、最も効果的な摂取方法を理解することが大切です。クレアチン、特にクレアチン・モノハイドレートのサプリメントは、高強度で瞬発力を要する運動を行う際のパフォーマンスの向上や、筋力、パワー、筋肉量の増加に繋がることが一貫して示されています。

クレアチンサプリメントは、様々なスポーツを行うアスリートには勿論のこと、筋トレで筋肉をつけたい人や、パフォーマンスを向上させたい人、トレーニング後の疲労回復や、中高年層で、筋力維持をしたい人、脳機能の改善を望む人など、様々な人に効果がある可能性があります。使用を始める前に医師や専門家への相談、適正量の厳守などに注意をした上で、正しく使っていきましょう。

< Recommendation by Our Experts>

  • ローディングフェーズとメンテナンスフェーズのプロトコールを理解し、適切な量を守って摂取することが大切です。

  • クレアチン摂取中は、筋肉中の水分保持を助けるために、十分な水分補給を心掛けましょう。

  • クレアチン摂取を考えている場合は、使用を始める前に必ず医師や専門家に相談しましょう。

< Reference >

  • Wax B, Kerksick CM, Jagim AR, Mayo JJ, Lyons BC, Kreider RB. Creatine for Exercise and Sports Performance, with Recovery Considerations for Healthy Populations. Nutrients. 2021;13(6):1915. doi:3390/nu13061915
  • Cooper R, Naclerio F, Allgrove J, Jimenez A. Creatine supplementation with specific view to exercise/sports performance: an update. Journal of the International Society of Sports Nutrition. 2012;9(1):33. doi:1186/1550-2783-9-33
  • Demant T, Rhodes E. Effects of Creatine Supplementation on Exercise Performance: Sports Medicine. 1999;28(1):49-60. doi:2165/00007256-199928010-00005
  • Williams MH, Branch JD. Creatine Supplementation and Exercise Performance: An Update. Journal of the American College of Nutrition. 1998;17(3):216-234. doi:1080/07315724.1998.10718751
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  • Poortmans JR, Francaux M. Adverse Effects of Creatine Supplementation: Fact or Fiction? Sports Medicine. 2000;30(3):155-170. doi:2165/00007256-200030030-00002
  • Kim HJ, Kim CK, Carpentier A, Poortmans JR. Studies on the safety of creatine supplementation. Amino Acids. 2011;40(5):1409-1418. doi:1007/s00726-011-0878-2
  • Davani-Davari D, Karimzadeh I, Ezzatzadegan-Jahromi S, Sagheb MM. Potential Adverse Effects of Creatine Supplement on the Kidney in Athletes and Bodybuilders. Iran J Kidney Dis. 2018;12(5):253-260.