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ピックルボールに多い怪我とその予防戦略

〜“誰でも楽しめるスポーツ”を“長く安全に続ける”ために〜

ここ数年、ピックルボールは「世界で最も成長しているスポーツ」の一つと言われています。
SIFA (Super International Pickleball Federation Association) のデータによると、この3年間で競技人口は223.5%増加し、アメリカでは特に急成長しています。

  • 年齢層は幅広い

  • ルールはシンプル

  • 屋内外でプレー可能

  • 道具も比較的リーズナブル

この「始めやすさ」が特徴ですが、同時に “怪我をしやすい条件”も揃っている のが現実です。
本記事では、ピックルボールに多い怪我と、その予防・リハビリについて、理学療法の視点から整理します。

1. ピックルボールというスポーツの特徴とリスク背景

ピックルボールは、テニス・バドミントン・卓球を組み合わせたようなラケットスポーツで、

  • 素早い横方向のステップ

  • 急なストップ&スタート

  • ピボット(軸足の回旋)

  • オーバーヘッド動作(スマッシュ等)

が繰り返し出現します。

「ローインパクトで関節に優しそう」 なイメージとは裏腹に、
・方向転換
・減速動作
・反復スイング
といった負荷が積み重なり、急性外傷だけでなくオーバーユース障害も多くみられます。

とくに:

  • 競技人口の平均年齢:35歳

  • 最多層:25〜37歳

  • ただし 60代以上でも人気が急増中

  • 60代のピックルボール関連骨折が過去5年で 約90倍 に増加(米整形外科学会報告)

という背景から、若年〜中高年まで怪我の“質”が変わりつつ発生しているスポーツ といえます。

2. ピックルボールで特に多い怪我

2-1. 肩の障害:回旋腱板損傷・上腕二頭筋腱障害

  • 繰り返されるオーバーヘッドショット

  • 無理なフォームでのスマッシュ・サーブ

  • 不十分な体幹・股関節の連動

によって、
変性した回旋筋腱板の断裂、腱炎、上腕二頭筋腱炎 などが起こりやすくなります。

特にシニア層では、もともとの腱変性が背景にあることが多く、
「急に痛くなったから“その一球”が原因」ではなく、
長年の負荷+ピックルボール開始で一気に顕在化 するケースも少なくありません。


2-2. テニス肘(外側上顆炎:いわゆるピックル肘)

  • グリップの握り過ぎ

  • 手首主体のスイング

  • パドルの重さ・バランスが合っていない

などにより、
前腕伸筋群の腱付着部(外側上顆)に微小損傷が蓄積

痛みだけでなく、握力低下・バックハンドストローク時の鋭い痛みなどが出現し、
放置すると慢性化しやすい部位です。


2-3. 膝の障害:半月板・靭帯・膝蓋腱・変形性膝関節症の再燃

ピックルボールの典型的な膝の負担要因は:

  • 横方向のクイックステップ

  • 急な減速・切り返し

  • 半ば無理なランジ姿勢からのリカバリー

Current Sports Medicine Reports では、
以下のような膝障害が多いと報告されています:

  • 半月板損傷

  • 膝蓋腱障害

  • 内側側副靭帯損傷

  • 既存の変形性膝関節症の悪化


2-4. アキレス腱炎・アキレス腱断裂

特に58歳以上 に急増しているとされる障害です。

  • 急なスタートダッシュ

  • 後方へのバックステップ

  • 不十分なウォームアップ

  • 履き慣れていないシューズ

などが重なると、
アキレス腱炎 → 断裂 という流れも珍しくありません。


2-5. 手首の捻挫・不安定性

  • 手首のこまめな角度調整

  • 無理な手首スナップ主体のショット

  • 転倒時の手つき動作(FOOSH:手をついて倒れる)

これらが重なり、

  • 手関節捻挫

  • TFCC傷害

  • 慢性的な不安定感

などの原因になります。
「ちょっと捻っただけ」と軽視されがちですが、
きちんと評価・介入しないと 長期のパフォーマンス低下 に繋がります。


2-6. 内転筋(鼠径部)の肉離れ

  • サイドへのランジ

  • 急な切り返し

  • 十分な柔軟性・筋力不足

から、

  • 大内転筋断裂(いわゆる“ミニハムストリング”)

  • 長内転筋・短内転筋の肉離れ

が起こることもあります。
いずれも復帰までに時間がかかり、再発率も高い部位 です。


2-7. 転倒とそれに伴う外傷

ピックルボール特有の「キッチン(ノンボレーゾーン)」では、

  • ボールに釣られて前後に出入りする

  • ギリギリのボレーを狙って無理な体勢になる

ことで、転倒・接触が起きやすくなります。

さらに:

  • ランニングシューズなど不適切なシューズ

  • メンテナンス不良のコート

  • 疲労蓄積・反応速度低下

などが重なると、転倒→骨折・打撲・捻挫が一気に増加します。

3. 慢性化したピックルボール障害と理学療法の役割

急性外傷と違い、オーバーユース型の慢性障害は

  • 痛みが「なんとなく続く」

  • しばらく休むと少し良くなるが、復帰すると再発

  • 可動域制限や局所の硬さが残り続ける

といった形で長期化しやすいのが特徴です。

理学療法の介入では:

  1. 負荷のヒストリーと動作の分析

  2. 患部だけでなく全身の機能評価(股関節・体幹・足部など)

  3. 競技復帰を見据えた段階的リハビリ+ピックルボール特異的ドリル

をセットで考えます。

4. 怪我を減らすためのトレーニング戦略

4-1. 筋力トレーニング(全身)

特に重点を置きたい部位:

  • 下肢:

    • 大腿四頭筋、ハムストリングス

    • 中殿筋・大殿筋(股関節外転・伸展)

    • ふくらはぎ(腓腹筋・ヒラメ筋)

  • 上肢:

    • 前腕屈伸筋群(グリップ)

    • 回旋筋腱板(インナーマッスル)

    • 肩甲帯周囲筋(前鋸筋・菱形筋など)

目的
急激な加速・減速・方向転換に耐えられる “ブレーキ筋” を育てること。


4-2. 柔軟性トレーニング

重点ストレッチ部位:

  • ハムストリングス

  • ふくらはぎ

  • 股関節屈筋群・伸筋群

  • 大腿四頭筋

  • 臀筋群

  • 胸椎・肩周囲

ポイント

  • 競技前 → ダイナミックストレッチ(動的ストレッチ)

  • 競技後 → スタティックストレッチ(静的ストレッチ)


4-3. バランストレーニング(足首・体幹)

  • 片脚立ち(フォームバリエーション)

  • タンデムウォーク(綱渡り歩き)

  • バランスボード / ウォブルボード

  • 片脚スクワットのコントロール

これらは、

  • 足関節の固有感覚(プロプリオセプション)

  • 衝撃吸収能力

  • 転倒予防

に直結します。


4-4. プライオメトリクス & アジリティ

ピックルボールの “ゲームスピード” に対応するためには:

  • サイドホップ

  • ボックスジャンプ

  • ラダートレーニング

  • コーンドリル

  • シャトルラン

などを用いて、

  • 加速・減速

  • 方向転換

  • 反応スピード

を鍛えることが重要です。


4-5. 回旋筋腱板 & 肩の安定化

  • セラバンドでの ER/IR(外旋・内旋)

  • スキャプラコントロール(肩甲骨の安定性トレ)

  • スローイングプログラムの応用(Thrower’s Ten など)

ピックルボールのスイングやオーバーヘッド動作は、
野球・バレーボールと非常によく似たストレスパターン を持つため、
既存のスローワープログラムを応用する価値があります。


4-6. コアスタビリティ

  • プランク・サイドプランク

  • デッドバグ

  • シングルレッグデッドリフト

  • ランジ系エクササイズ

下肢とラケットへの“力の伝達”を安定させ、
肩や肘にかかる余計な負担を減らす 効果が期待できます。

    5. 実践的な怪我予防のポイント

    5-1. ウォームアップ(10〜15分)

    • 軽いジョギング・スキップ・ハイニー

    • アームサークル・レッグスイング・ランジツイスト

    • 軽めのボレーラリー(肩・肘・手首のウォームアップ)

    5-2. テクニックとフォーム

    • 「手打ち」ではなく 体幹・股関節からスイング

    • 急なピボットを減らし、ステップで向きを変える

    • 疲労困憊状態での長時間プレーは避ける

    5-3. シューズ・ギア選び

    • ランニングシューズは NG(横方向の安定性不足)

    • コートスポーツ用(バドミントン・テニス・バレー等)を選択

    • グリップサイズ・重さ・バランスの合ったラケット

    • 必要に応じて:足首サポーター、リストガード、エルボーストラップ

    5-4. 目の保護

    • 保護メガネ(ゴーグル)は、

      • 網膜裂傷

      • 角膜擦過傷

      • 水晶体損傷
        などのリスクを大きく減らします。

    5-5. 負荷マネジメント & プレハビリテーション

    • いきなり「毎日プレー」は避け、徐々に頻度と時間を増やす

    • 痛みを我慢して続けるのではなく、早期に負荷調整+評価

    • 高齢者・既往歴のある方は、理学療法士によるプレハビリテーション を推奨

    まとめ

    ピックルボールは、
    「ローインパクトで楽しい、しかし決してノーリスクではないスポーツ」 です。

    • 適切なウォームアップ

    • 全身の筋力・柔軟性・バランス向上

    • ギア選びとフォームの調整

    • 負荷のマネジメントとプレハビリテーション

    を組み合わせることで、
    あらゆる年齢層のプレーヤーが 長期的に安全に楽しめるスポーツ になります。

      < 要点:Key Takeaways >

      • ウォームアップを“儀式”として必ず入れる

        • ジョギング+動的ストレッチ+軽いボレー → 10〜15分を目安に。

      • 道具とテクニックは“怪我予防の一部”と考える

        • 足に合ったコートシューズと、軽く振れるラケットを選び、
          手首だけでなく、股関節・体幹を使ったフォームを身につけましょう。

      • 身体のサインを無視しないこと

        • 痛み・違和感・張りが続く場合は、休む・負荷を下げる・専門家に相談する。

        • 「続けられること」が最大のパフォーマンスアップにつながります。

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