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Evidence-Based Article
加圧トレーニング(BFR: Blood Flow Restriction)
― 低負荷で筋肥大?その効果とリスクを科学的に整理する ―
1. 加圧トレーニングとは?(概要)
加圧トレーニング(Blood Flow Restriction Training, BFR)は、日本発祥のユニークな筋力トレーニング法です。
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上肢:上腕の付け根
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下肢:大腿の付け根
に専用のバンドやカフを巻き、動脈血はある程度流しつつ、静脈血の還流を制限した状態で、
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軽い負荷
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比較的短時間
の運動を行います。
Journal of Sports Medicine and Physical Fitness などの研究では、
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従来のレジスタンストレーニングにBFRを併用することで、
筋サイズ・筋力・パフォーマンスの向上がみられた
と報告されています。
「高負荷トレーニングに近い効果を、低負荷で得られる可能性がある」
という点から、
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中高年
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関節や痛みの問題で高負荷が難しい人
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術後・リハビリ期の患者
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アスリートの補助トレーニング
などで注目されています。
2. 生理学的な作用機序(なぜ効くのか?)
BFRのメカニズムは完全には解明されていませんが、
Frontiers in Physiology などの文献から、以下のようなプロセスが示唆されています。
1)局所低酸素(Hypoxia)と代謝ストレス
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血流を部分的に制限
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筋内の酸素供給が低下(低酸素状態)
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乳酸などの代謝産物が蓄積
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筋肉は「強い運動をしている」と錯覚
→ 軽い負荷でも、高強度トレーニングに近い“きつさ” を感じやすくなります。
2)タンパク質合成シグナルの活性化
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低酸素・代謝ストレスは、
mTOR経路(タンパク質合成を調整する重要なシグナル)を刺激する可能性が報告されています。 -
これにより、
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筋タンパク質の合成増加
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筋タンパク質分解の抑制
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→ 結果として 筋肥大・筋力向上につながる可能性 が考えられています。
3)その他の効果
いくつかの研究では、BFRトレーニングが:
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有酸素運動能力の改善
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骨代謝へのポジティブな影響
を示唆している報告もあり、筋肉+心肺+骨 の観点からも注目されています。
3. 加圧トレーニングのメリット(Clinical Perspective)
● 低負荷で筋肥大・筋力向上の可能性
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伝統的な高負荷トレーニング(例:70〜85%1RM以上)が難しい人でも、
20〜30%1RM程度の軽負荷 で筋肥大・筋力向上が期待できる可能性がある。 -
関節ストレスを抑えたいケースや、術後早期のリハビリには特に魅力的。
● 幅広い対象に応用できる可能性
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中高年
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関節疾患・痛みのある人
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筋萎縮リスクの高い人(長期安静・術後など)
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高負荷トレーニングが心理的・身体的にハードな初心者
などに対して、補助的トレーニング として検討されることがあります。
4. 加圧トレーニングのリスク(安全性)
メリットが強調されがちですが、BFRには明確なリスクも存在します。
● 報告されている主な副作用
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めまい
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しびれ
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皮下出血(うっ血・内出血)
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横紋筋融解症(過度・不適切な負荷や熱中症などが重なる場合)
2022年 Frontiers in Physiology の報告などでは、BFRが一部の人で:
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血圧の上昇
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血栓症のリスク増加
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心血管系への負担
を引き起こす可能性が示されています。
● BFRを避けるべき・慎重にすべき人
特に以下のような人は、事前に医師に相談するか、原則としてBFRを避ける対象とされています(Cleaveland Clinic などの情報を含む):
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高血圧・心血管疾患の既往
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慢性腎臓病
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糖尿病など代謝性疾患のある人
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妊娠中
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活動性の感染症がある人
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血液凝固異常・抗凝固療法中の人
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骨折がある部位
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進行中の悪性腫瘍がある人
ポイント:
BFRは「誰にでも安全に使えるトレーニング法」ではなく、
リスク評価とスクリーニングが必須の介入です。
5. 加圧トレーニングの実践ポイント(How-to)
1)カフ(バンド)の圧設定
一般的な目安として:
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上肢:
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動脈血流の30〜50%程度を制限
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下肢:
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動脈血流の50〜80%程度を制限
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巻く位置:
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腕:上腕二頭筋の付け根あたり(肩に近い位置)
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脚:大腿部の付け根(股関節に近い位置)
※ 実際には、個人の血圧・四肢の大きさ・カフの幅 などによって適切な圧が変わるため、
BFRの教育を受けたトレーナー・理学療法士が個別に設定することが必要です。
2)時間と頻度
Cleaveland Clinic などの推奨例では:
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1セッションでの加圧時間:
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上肢・下肢ともに 8〜20分程度 を目安
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長時間連続での加圧は避ける
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強い痛み・しびれ・気分不良があれば即中止
3)具体的なエクササイズ例
※ 以下はあくまでイメージであり、実施には専門家の指導が必要です。
● 下肢:スクワット(自重)
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大腿にカフを巻き、
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自重スクワットを 5〜15分程度 実施
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運動強度は「ややきつい〜きつい」程度を目安に調整
● 上肢:腕立て伏せ
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上腕にカフを巻き、
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通常の腕立て伏せ、もしくは膝つきや壁腕立て伏せなど、
レベルに応じて選択 -
5〜10分程度 を目安に
● BFR+HIT
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強度が非常に高くなりやすいため、
初めての人には推奨されません。 -
実施する場合も、短時間(5分程度)からの慎重な導入が必須です。
6. 誰が・どのように扱うべきか?(臨床・現場での位置づけ)
加圧トレーニング(BFR)は、
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うまく使えば、低負荷で筋肥大・筋力向上を狙える興味深いツール
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しかし、誤った方法や不適切な対象者に行うと、
心血管系・神経系・筋損傷などのリスクが増える可能性がある介入
です。
そのため、
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BFRの教育・トレーニングを受けた
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専門トレーナー
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理学療法士
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医療・リハビリ関連職
が主体となってプログラムを設計し、
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対象者の既往歴・リスクを評価したうえで
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個別化した圧設定・エクササイズ選択・頻度を決める
という流れが、安全かつ理想的な運用といえます。
< 要点:Key Takeaways >
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加圧トレーニング(BFR)は、
低負荷・短時間でも筋肥大・筋力向上が期待できる トレーニング法。 -
低酸素・代謝ストレスを通じて、mTOR経路などのタンパク質合成シグナルを刺激する可能性がある。
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中高年・術後・高負荷が難しい人・リハビリ患者など、適切な対象には有用な選択肢となり得る。
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一方で、
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めまい・しびれ・皮下出血・横紋筋融解症
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血圧上昇・血栓症・心血管系リスク
などの危険性もあり、誰にでも安全というわけではない。
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高血圧・心血管疾患・腎疾患・糖尿病・妊娠中・血液凝固異常・悪性腫瘍などがある場合は、
原則として医師と相談のうえ慎重な判断が必要。 -
実施する際は、
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加圧圧の設定
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加圧時間
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種目選択・頻度
のすべてで、「専門家による個別調整」が成功と安全のカギとなる。
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< Reference >
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- What is blood flow restriction training? (2022). https://health.clevelandclinic.org/blood-flow-restriction-training


