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交代浴とアスリート

〜科学的根拠に基づくリカバリー戦略〜

ハードなトレーニングを積み重ねるアスリートにとって、「どう回復するか」もトレーニングの一部 です。
その中でも、プロ・アマ問わず人気が高いリカバリー方法のひとつが 温冷交代浴(contrast bath / contrast water therapy) です。

  • 「なんとなくスッキリするからやっている」

  • 「エリート選手がやっているから真似している」

というケースも多いですが、
本当に科学的な裏付けはあるのか?
どんな選手に、どんなタイミングで勧められるのか?

この記事では、交代浴の基本から、

  • 作用メカニズム

  • エビデンスが示すメリット

  • リスクと注意点

  • 実際に使うときのポイント

までを、リハ・トレーナー目線で整理します。

1. 温冷交代浴とは?基本プロトコル

温冷交代浴(contrast bath) とは、
身体の一部または全身を、

  • 温水 に浸ける:3〜4分

  • 冷水 に浸ける:1分

というサイクルを 3〜5セット 繰り返す方法です。

一般的に用いられる水温の目安

  • 温水:38〜43℃(100〜110°F)

  • 冷水:13〜18℃(55〜65°F)

最後を

  • 冷水で終える:炎症・腫脹を抑えたいとき

  • 温水で終える:リラックス感・副交感神経優位を促したいとき

など、目的に応じて「締め」を変える 使い方もあります。

2. 交代浴はなぜ効くのか?考えられるメカニズム

交代浴のメカニズムは、まだ完全には解明されていませんが、
主に次のような生理学的効果が関与していると考えられています。

2-1. 血管の「ポンプ効果」

  • 温水 → 末梢血管が拡張

  • 冷水 → 末梢血管が収縮

これを交互に繰り返すことで、血管の収縮・拡張がポンプのように働き、以下が期待されます。

  • 局所の血流循環の改善

  • 代謝産物・老廃物のクリアランス促進

  • むくみ・炎症の軽減サポート

2-2. 筋疲労・主観的疲労感の軽減

いくつかの研究では、温冷交代浴が

  • トレーニング後の 主観的疲労感や筋肉痛(DOMS)の軽減

  • 「回復が早まった」という 選手の体感的フィードバック

と関連していることが報告されています。
(Shimizu et al., 2024; Crowther et al., 2017)

2-3. 血流・酸素供給の改善

筋内血流や酸素供給を改善することで、
組織の自然治癒プロセスをサポートする可能性 も指摘されています。
(Shadgan et al., 2018)

2-4. 乳酸など疲労物質のクリアランス

アクティブリカバリー(軽い有酸素など)に 交代浴を組み合わせる ことで、

  • 血中乳酸

  • その他代謝産物

のクリアランスがより効率的になる可能性を示唆する報告もあります。
(Pelana et al., 2019)

3. 交代浴の効果:現時点のエビデンスの捉え方

3-1. アスリートの主観的なメリット

多くのエリートアスリートは、交代浴について

  • 「疲労感が軽くなる」

  • 「翌日の重だるさが違う」

  • 「リフレッシュできる」

といった ポジティブな体感 を報告しています。 (Silva et al., 2022)

主観的回復感の向上 は、そのまま

  • コンフィデンス

  • 翌日のトレーニングへの心理的ハードルの低下

にもつながるため、競技現場では無視できない要素です。

3-2. 臨床における活用例

理学療法の文脈では、交代浴を

  • 痛みの軽減

  • 関節可動域(ROM)の改善

を目的として、運動療法と組み合わせて用いることで、
変形性膝関節症などの症状マネジメントに有用な可能性 が報告されています。
(Fokmare & Phansopkar, 2022)

3-3. 「魔法のリカバリー」ではない

一方で、現時点の研究をまとめてみると、

  • パフォーマンス指標(ジャンプ高・スプリントタイムなど)への影響は 一貫していない

  • 交代浴だけで 劇的な回復効果 を示す、というレベルのエビデンスはまだ不十分

と言えます。

交代浴は、「リカバリーの基礎を整えた上での+α」
= 補完的なツール として位置づけるのが現実的です。

4. 交代浴のリスクと禁忌

どんなリカバリー手法も 「誰にでも安全」 ではありません。
温冷交代浴にも、避けるべきケース が存在します。

4-1. 実施を控えるべき人

ケンブリッジ大学病院などの情報をまとめると、
以下のような人は温冷交代浴を 避ける、もしくは医師と要相談 とされています。

  • 開放創・感染創がある部位

  • Kワイヤー(外固定ピン)が皮膚から露出している部位

  • 未コントロールの高血圧など 心血管系疾患 のある人

  • 末梢の 感覚障害 がある人(熱傷・凍傷のリスク)

4-2. 温度と時間に関する注意

  • 温度は必ず 推奨レンジ(温水 38〜43℃/冷水 13〜18℃) の範囲内で

  • 「熱すぎる/冷たすぎる」と感じる場合はすぐ中止

  • 1セッションの合計時間が長くなりすぎないように注意(一般的には 20分前後)

特に自宅実施では、「我慢強さ」が逆にリスクになることがあります。
「ちょうど良い不快感」レベルを越えない ことが重要です。

5. 現場で使いやすい交代浴プロトコル例

基本プロトコル(全身または下肢)

  1. 温水:38〜41℃ に 3〜4分浸かる
  2. 冷水:13〜18℃ に 1分浸かる
  3. ①〜②を 3〜5セット 繰り返す
  4.  最後を
    • 冷水で締める → 試合後・強度が高い練習後、炎症・腫脹を抑えたいとき

    • 温水で締める → リラックスしたい夜間、睡眠前など

局所交代浴(足部・前腕など)

  • バケツ・タブを使い、同様に「温3〜4分/冷1分」を繰り返す

  • 全身に比べて循環負荷が少ないため、初心者やリスクの高い人には局所からスタートすると安全

他のリカバリー手段との組み合わせ

交代浴は他のリカバリー手法と 併用することで意味を持ちます

例:

  • アクティブリカバリー(軽いバイクやジョグ)

  • ストレッチ/モビリティエクササイズ

  • 低負荷での血流促進運動

  • 睡眠・栄養戦略

などと組み合わせることで、「なんとなく気持ちいい」で終わらず、
目的と一貫性のあるリカバリープラン を構築できます。

6. 総括:交代浴の“正しい立ち位置”

現時点のエビデンスを整理すると、交代浴は

  • ✅ 主観的な疲労感・筋肉痛の軽減

  • ✅ 一部の状況での血流改善・乳酸クリアランスのサポート

  • ✅ エリートアスリートのポジティブな体感・実践例

  • ✅ 理学療法と組み合わせた痛み・可動域改善の可能性

といった プラス面 が期待できる一方で、

  • ❗ それ単独で競技パフォーマンスを劇的に変えるツールではない

  • ❗ 心血管系疾患や感覚障害など、避けるべきケースもある

という 限界や注意点 もはっきりしています。

一番重要なのは、

「睡眠・栄養・休息」というリカバリーの土台を整えた上で、
交代浴を“補助的なツール”として活用すること。

これが、エビデンスと現場感覚の両方を踏まえた、現実的な位置づけと言えるでしょう。

< 要点:Key Takeaways >

  • まずはリカバリーの土台から整えましょう。
    温冷交代浴を取り入れる前に、十分な睡眠、バランスのとれた栄養、適切な休息を確保することが最優先です。その上で、交代浴は回復を「後押しする」補完ツールとして活用しましょう。

  • 激しいトレーニングや試合後に、戦略的に使いましょう。
    強度の高いセッションの後に温冷交代浴を取り入れることで、主観的疲労感や筋肉痛の軽減を狙えます。ただし、これだけに依存せず、アクティブリカバリーやストレッチなど他の方法と組み合わせることが重要です。

  • 全員に万能ではないことを忘れず、個別性を重視しましょう。
    心血管系疾患や感覚障害のある人、開放創がある部位には適さない場合があります。選手の健康状態や目的に合わせてプロトコルを調整し、必要に応じて医師・理学療法士など専門家と相談しながら導入してください。

< Reference >

  • Shimizu R, Hangai M, Takahashi S, Hikawa K, Nakajima K. 535 EP020 – Survey of the methods and subjective effects of contrast bathing during the olympic games. In: E-Posters. BMJ Publishing Group Ltd and British Association of Sport and Exercise Medicine; 2024:A84.1-A84. doi:1136/bjsports-2024-IOC.145
  • Crowther F, Sealey R, Crowe M, Edwards A, Halson S. Influence of recovery strategies upon performance and perceptions following fatiguing exercise: a randomized controlled trial. BMC Sports Sci Med Rehabil. 2017;9(1):25. doi:1186/s13102-017-0087-8
  • Shadgan B, Pakravan AH, Hoens A, Reid WD. Contrast Baths, Intramuscular Hemodynamics, and Oxygenation as Monitored by Near-Infrared Spectroscopy. Journal of Athletic Training. 2018;53(8):782-787. doi:4085/1062-6050-127-17
  • Pelana R, Maulana A, Winata B, et al. Effect of contrast water therapy on blood lactate concentration after high-intensity interval training in elite futsal players. Physiother Quart. 2019;27(3):12-19. doi:5114/pq.2019.86463
  • Silva PVTD, Pedrini Junior H, Oliveira PEMD, Agostinho JLP, Castoldi RC, Zanuto EAC. Effectiveness of the contrast technique as recovery after effort according to professional athletes. Fisioter mov. 2022;35:e35112. doi:1590/fm.2022.35112
  • Fokmare PS, Phansopkar P. A Review on Osteoarthritis Knee Management via Contrast Bath Therapy and Physical Therapy. Cureus. Published online July 27, 2022. doi:7759/cureus.27381