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腱板腱症

Rotator Cuff Tendinopathy

腱板腱症は、肩関節周囲の痛みを引き起こす代表的な腱障害のひとつです。特に、野球、バレーボール、テニス、水泳など、腕を頭上で繰り返し使用するオーバーヘッドアスリートでは、競技パフォーマンスやトレーニング継続に大きな影響を与える可能性があります。

現在のエビデンスでは、腱板腱症は単純な「炎症」や「肩峰下で腱が挟まる問題」としてではなく、腱に加わる負荷と、その負荷に適応・回復する能力のバランスが崩れた状態として考えることが重要です。¹⁻³

腱板腱症とは?

 

腱板(Rotator Cuff)は、

  • 棘上筋(Supraspinatus)
  • 棘下筋(Infraspinatus)
  • 小円筋(Teres Minor)
  • 肩甲下筋(Subscapularis)

の4つの筋とその腱から構成され、上腕骨頭の安定化や肩関節運動のコントロールに重要な役割を果たしています。

腱板腱症では、反復する負荷に対して腱の適応や回復が追いつかなくなることで、疼痛、機能低下、運動耐容能の低下などがみられます。¹,²

腱組織では、

  • コラーゲン線維の配列変化
  • 腱の肥厚
  • 細胞外マトリックスの変化
  • 腱の機械的特性の変化
  • 血管や神経分布の変化

などが報告されています。¹,²

しかし、画像上の腱変化=痛みの原因とは限りません。

腱の構造変化は無症状者にもみられるため、MRIや超音波検査で異常が確認されたという理由だけで腱板腱症と診断することは適切ではありません。臨床症状と身体機能を含めて総合的に判断する必要があります。⁴,⁵

さらに近年では、腱症そのものにも異なる生物学的サブタイプが存在する可能性が示されており、すべての患者が同じ病態や治療反応を示すわけではないことも示唆されています。³

よくみられる症状

代表的には、

  • 腕を上げたときの肩痛
  • 投球、サーブ、スパイクなどでの疼痛
  • 抵抗運動時の痛み
  • 腕を下ろす際の痛み
  • 肩の筋力低下
  • 長時間または高強度の運動での症状増悪
  • 痛みや疲労によるパフォーマンス低下

などがみられます。

重要なのは、安静時の痛みだけではなく、**「どの負荷・どの動作で症状が再現されるのか」**を確認することです。⁴

人間の身体と神経系に存在する自然な左右差を示すイラスト

なぜアスリートにとって重要なのか?

 

腱板は、オーバーヘッドスポーツにおいて肩関節を動かすだけでなく、高速運動中の上腕骨頭のコントロールや、腕の加速・減速にも関与します。

そのため、腱板腱症では単純に「肩が痛い」だけではなく、

  • 投球速度の低下
  • サーブやスパイクの威力低下
  • コントロールの低下
  • 高強度反復動作への耐性低下
  • 練習量の低下
  • 試合後半での症状増悪

など、スポーツパフォーマンスに直接影響する可能性があります。

オーバーヘッドアスリートを対象とした研究では、肩外旋筋・内旋筋の筋力低下、外旋可動域の制限、棘上筋筋力低下、ER/IR筋力バランスの変化などが、肩障害や腱板腱症のリスク因子として報告されています。ただし、これらの因子に関するエビデンスの強さは一様ではなく、単独で将来の障害を予測できるわけではありません。⁷,⁸

したがって、評価では腱そのものだけでなく、

「その選手が競技で必要とする負荷に肩が耐えられるか」

という視点が重要になります。

腱板腱症のFunctional Diagnosis

腱板腱症には、単独で診断を確定できる特別なSpecial Testはありません。

国際的な専門家コンセンサスでも、特定のSpecial Testより、

  • 負荷による症状再現
  • オーバーヘッド動作による症状
  • Active movement
  • Resisted movement

などの臨床所見が重要視されています。⁴

したがってFunctional Diagnosisでは、Special Testを当てることではなく、患者の症状・機能・負荷耐性を組み合わせて診断確率を高めていくことが基本になります。

Step 1:症状と負荷の関係を確認する

まず、

  • いつから症状があるか
  • 急性発症か徐々に発症したか
  • どの競技動作で痛むか
  • どの程度の練習量で症状が出るか
  • 投球数や練習量が最近増えていないか
  • 痛みによって何ができなくなっているか

を確認します。

典型的には、肩を挙上する動作や抵抗運動など、腱板への負荷が増える活動で症状が再現されることが重要な臨床所見です。⁴,⁵

Step 2ROM・筋力・機能を評価する

身体評価では、

  • Active ROM
  • Passive ROM
  • Shoulder ER / IR ROM
  • 外転・挙上機能
  • Rotator Cuff strength
  • ER / IR strength
  • 肩甲帯筋力
  • 必要に応じた頸椎・神経学的評価

などを確認します。

筋力は可能であれば徒手筋力検査だけでなく、Handheld Dynamometerなどを使用して客観化することが推奨されています。⁵

アスリートではさらに、

  • 投球
  • サーブ
  • スパイク
  • 水泳ストローク
  • オーバーヘッドリフティング

など、実際に問題となっているPrimary Functionに近い動作で症状や負荷耐性を評価することが重要です。

サッカーのキック動作で蹴り脚と支持脚の異なる役割を示すアスリート

Special Tests

Special Testは単独で診断するものではなく、臨床所見を補助するために使用します。

Painful Arc Test

肩関節を自動挙上する途中で症状が再現されるかを確認します。

Painful Arcは比較的特異度が高く、現在のClinical Practice Guidelineでも腱板腱症の診断を支持するために使用できる検査として挙げられています。⁵,⁶

左右差だけでなく筋力・症状・競技動作など複数の要因から傷害リスクを考える概念図

Hawkins-Kennedy Test

肩を挙上した状態で内旋方向への負荷を加えて症状を確認します。

比較的感度が高く、陰性所見は腱板関連肩痛の可能性を下げるために役立つ可能性があります。⁵,⁶

左右差だけでなく筋力・症状・競技動作など複数の要因から傷害リスクを考える概念図

Neer Test

肩関節を受動的に挙上し、症状が再現されるか確認します。

感度は比較的高いものの、腱板腱症に特異的な検査ではありません。⁶

左右差だけでなく筋力・症状・競技動作など複数の要因から傷害リスクを考える概念図

Resisted External Rotation

肩外旋への抵抗による痛みや筋力低下を評価します。

特に棘下筋・小円筋を含む後方腱板の負荷反応を評価する際に有用です。

左右差だけでなく筋力・症状・競技動作など複数の要因から傷害リスクを考える概念図

Jobe / Empty Can Test

棘上筋に対する負荷による疼痛や筋力低下を確認します。

腱板腱症だけでなく、棘上筋断裂が疑われる場合にも参考になります。⁶

左右差だけでなく筋力・症状・競技動作など複数の要因から傷害リスクを考える概念図

External Rotation Lag Sign

単なる腱症よりも、全層性の棘上筋・棘下筋断裂が疑われる場合に重要な検査です。高い診断精度が報告されており、明らかな筋力低下がある場合には鑑別に有用です。⁶

左右差だけでなく筋力・症状・競技動作など複数の要因から傷害リスクを考える概念図

Speed’s Test

腱板腱症そのものよりも、上腕二頭筋長頭腱の関与を評価する目的で使用されます。⁶

左右差だけでなく筋力・症状・競技動作など複数の要因から傷害リスクを考える概念図

Test Cluster

アスリートを対象としたLeongらの研究では、腱板腱症群を分類する際に、

  • 3か月以上続くトレーニング中の肩痛
  • 痛みの誘発が3/10以上
  • 超音波上の棘上筋腱の異常または部分断裂
  • 以下5項目のうち3項目以上が陽性
    • Painful Arc
    • Resisted External Rotationでの痛みまたは筋力低下
    • Neer Test
    • Hawkins-Kennedy Test
    • Jobe Test

という基準が使用されています。⁷

これはアスリートの評価を考えるうえで参考になるclinical clusterですが、すべての患者に適用できる確立された診断ルールではなく、研究上の症例定義として使用された基準であることに注意が必要です。

Special Testの数を数えることそのものより、

症状パターン+負荷反応+ROM+筋力+機能+必要に応じた画像所見

を統合して判断することが重要です。⁴,⁵

画像検査は必要か?

腱板腱症は基本的に臨床診断です。

現在のClinical Practice Guidelineでは、典型的な腱板腱症が疑われる患者に対して、初期からルーチンで画像検査を行うことは推奨されていません。⁵

ただし、

  • 外傷後の著明な筋力低下
  • Full-thickness tearの疑い
  • 長期間改善しない症状
  • 診断が不明確
  • Calcific Tendinopathyの疑い
  • 手術適応を検討する場合

などでは、超音波やMRIが有用になる場合があります。

特に超音波は、腱板の連続性や石灰化の確認などに利用できます。¹⁴

Treatment & Rehabilitation Overview

腱板腱症の治療では、基本的に保存療法が第一選択となります。

そして中心となるのはPassive Treatment単独ではなく、段階的なExercise TherapyLoad Managementです。²,⁵,¹⁰⁻¹²

Phase 1Pain & Load Management

初期には、完全な安静を目指すのではなく、

  • 症状を強く悪化させている負荷を調整する
  • トレーニング量を一時的に変更する
  • 症状をコントロールしながら可能な活動を継続する

ことを考えます。

重要なのは「痛いから使わない」ではなく、現在の腱が耐えられる負荷量を見つけることです。

Phase 2Mobility & Movement Capacity

症状が落ち着いてきたら、

  • 必要な肩関節ROM
  • 胸郭・肩甲帯機能
  • 肩甲帯筋群のパフォーマンス
  • 動作コントロール

など、実際に確認された機能低下に対して介入します。

すべての患者に同じ「理想的な肩甲骨運動」を当てはめるのではなく、患者ごとの機能的問題に基づいて判断します。

Phase 3Progressive Loading

リハビリテーションの中心となる段階です。

Rotator Cuffおよび肩甲帯・上肢全体に対して、徐々に負荷を高めていきます。

研究では、

  • Eccentric exercise
  • Concentric exercise
  • Conventional resistance exercise
  • Open kinetic chain
  • Closed kinetic chain
  • Supervised exercise
  • Home exercise

など、さまざまな方法で疼痛と機能改善が報告されています。

現時点では、ひとつの特定の運動方法が明確に最も優れているというエビデンスはなく、適切にProgressive Loadingを行うこと自体が重要と考えられています。¹⁰

Motor Controlを意識した運動も有用である可能性があります。運動による改善は筋力だけではなく、腱組織、神経筋制御、疼痛処理、自己効力感や運動への不安など、複数の要素を介して起こる可能性があります。²

Phase 4Return to Sport

アスリートでは、「痛みがなくなった」だけで競技復帰を判断するべきではありません。

競技復帰では、

  • 疼痛・症状反応
  • ROM
  • Strength
  • Endurance
  • Power
  • Functional performance
  • 反復負荷への耐性
  • Sport-specific movement
  • トレーニング負荷への耐性

などを総合的に確認します。⁵,¹¹

投球選手であれば投球、バレーボール選手であればサーブやスパイク、水泳選手であれば反復ストロークなど、実際の競技負荷に段階的に戻すことが必要です。

固定された「○週間で復帰」という時間基準よりも、Criteria-Based Progressionが重要になります。

症状・競技・外傷歴・パフォーマンス・時間経過から左右差を総合的に評価する概念図

その他の治療

NSAIDs、コルチコステロイド注射、PRPなどが使用されることもありますが、基本的には運動療法を置き換えるものではなく、症例に応じた補助的選択肢として考えます。⁵,¹²,¹³

PRPについては、一部の研究で長期的な疼痛・機能改善が報告されていますが、研究間で方法や対象が異なるため、一律に第一選択とするほどの結論には至っていません。¹³

また、Calcific Rotator Cuff Tendinopathyでは通常の非石灰性腱症とは病態が異なり、

  • Extracorporeal Shockwave Therapy
  • Ultrasound-guided needling / aspiration
  • PRP
  • その他の介入

などが検討される場合があります。¹⁴,¹⁵

< まとめ >

 

腱板腱症は、単純な炎症や「腱が挟まっている状態」ではありません。

アスリートでは特に、

負荷に対する腱・筋・神経筋システムの耐容能力が、競技で要求される負荷に追いついていない状態

として理解することが重要です。

診断では一つのSpecial Testや画像所見に依存せず、

症状パターン負荷による症状再現 → ROM・筋力 → Special Tests → Functional Performance → 必要に応じた画像検査

という流れで評価します。

治療ではExercise Therapyを中心として、Load Management、可動性、筋力、Motor Control、全身のKinetic Chain、そしてSport-Specific Loadingへと段階的に進めていきます。

最終的な目標は、単に「肩の痛みをなくすこと」ではありません。

アスリートが競技で必要とする負荷に再び耐えられる肩をつくることが、腱板腱症リハビリテーションの本質です。

L&R

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