肩インピンジメント
症候群

Shoulder Impingement

 

オーバーヘッドアスリートにおける
肩峰下インピンジメントの理解とマネジメント 

肩の肩峰下インピンジメント(Subacromial Impingement Syndrome:SIS)は、オーバーヘッドアスリートに最も多くみられる肩障害のひとつです。野球、テニス、バレーボール、ハンドボール、水球など、反復的に肩を挙上・外旋させる競技では、その発生率は特に高くなります(Bolia et al., 2021)。

SISは単一の原因で起こる疾患ではなく、複数のバイオメカニクス的・生理学的要因が相互に関与して生じる症候群である点を理解することが、適切な評価と治療を行う上で極めて重要です。

インピンジメント

インピンジメントは「一種類」ではない

オーバーヘッドアスリートにみられる肩インピンジメントは、大きく分けていくつかの異なる病態を含みます。
Boliaら(2021)は、肩のインピンジメントを以下のようなメカニズムで説明しています。

肩峰下インピンジメントは、上腕骨頭と肩峰・烏口肩峰靱帯との間でローテーターカフが圧迫される外因性圧迫、もしくは棘上筋腱の変性などによる内因性変化によって生じます。
一方、オーバーヘッドアスリートに特有なのが後上方インピンジメントであり、最大外転・外旋位において、ローテーターカフの関節面側が関節唇や関節窩と繰り返し衝突することで痛みが生じます(Bolia et al., 2021)。

これらは同時に存在することも多く、「インピンジメント=肩峰下の問題」と単純化してしまうと、治療の方向性を誤るリスクがあります。

なぜオーバーヘッドアスリートに起こりやすいのか

オーバーヘッド動作では、肩関節は高速で挙上・外転・外旋され、その直後に強い減速力を受けます。この極端な運動範囲と負荷が繰り返されることで、肩関節周囲の組織には大きなストレスが蓄積されます(Edmonds et al., 2014)。

特に問題となるのが、上腕骨頭の異常な並進です。
Shinde
ら(2023)のレビューでは、肩峰下インピンジメントを有するオーバーヘッドワーカーやアスリートにおいて、上腕骨頭の上方への並進が最も頻繁に認められることが示されています。この上方偏位は、肩峰下スペースをさらに狭小化し、ローテーターカフへの圧迫ストレスを増大させます。

この背景には、ローテーターカフの筋力低下やタイミング不全、肩甲骨運動の破綻など、複数の因子が関与しています。

肩甲骨機能とインピンジメントの関係

オーバーヘッドアスリートの肩障害を語る上で、肩甲骨の問題は避けて通れません。
Edmondsら(2014)は、投球やスパイク動作を繰り返すアスリートにおいて、肩甲骨の機能不全(Scapular Dyskinesis)、ローテーターカフ損傷や関節唇損傷と関連することを報告しています。

いわゆる SICK Scapula(肩甲骨の位置異常、内側縁の突出、烏口突起周囲の疼痛、運動時のディスキネシス)は、肩関節の力学的環境を悪化させ、インピンジメントのリスクを高めると考えられています(Edmonds et al., 2014)。

臨床で重要な評価の視点

インピンジメントが疑われるオーバーヘッドアスリートを評価する際には、症状を再現する競技特異的動作の確認が不可欠です。
Boliaら(2021)は、単一の徒手検査に依存するのではなく、複数の身体所見を組み合わせることで診断精度を高める必要性を強調しています。

画像評価も重要な役割を果たします。X線検査により骨形態を確認し、超音波やMRIによってローテーターカフや関節唇などの軟部組織の状態を評価することで、病態の把握がより明確になります(Bolia et al., 2021)。

疫学データが示す臨床的重要性

近年の研究では、オーバーヘッドアスリートの約3分の1に肩の軟部組織損傷が認められ、その中で肩峰下インピンジメント症候群が最も頻度の高い診断であったと報告されています(Potskhveria et al., 2025)。

また、部分的ローテーターカフ断裂を伴う選手では、競技パフォーマンスの機能的制限がより顕著であり、ローテーターカフのアンバランスと肩機能障害との有意な関連が示されています(Potskhveria et al., 2025)。

マネジメントの基本的考え方

肩インピンジメント症候群のマネジメントは、症状の重症度、慢性度、構造的損傷の有無に応じて保存療法または手術療法が選択されます。
多くのケースでは、まず保存的アプローチが選択され、十分な期間のリハビリテーションにもかかわらず改善が得られない場合に、外科的介入が検討されます(Bolia et al., 2021; Edmonds et al., 2014)。

重要なのは、「炎症を取る」ことだけで終わらせず、なぜインピンジメントが生じたのかという運動連鎖全体の問題を評価・修正する視点を持つことです。

まとめ(Evidence Aide

肩峰下インピンジメントは、オーバーヘッドアスリートにおいて最も一般的でありながら、最も誤解されやすい肩障害のひとつです。
エビデンスは、この病態が単純な「肩峰下の狭さ」ではなく、上腕骨頭の制御、ローテーターカフ機能、肩甲骨運動、競技特異的動作が複雑に絡み合って生じることを示しています。

正確な理解と評価が、適切なリハビリテーションと競技復帰への第一歩となります。

肩の痛み

< Reference >

  • Bolia, Ioanna K, Kevin Collon, Jacob Bogdanov, Rae Lan, and Frank A Petrigliano. “Management Options for Shoulder Impingement Syndrome in Athletes: Insights and Future Directions.” Open Access Journal of Sports Medicine Volume 12 (April 2021): 43–53. https://doi.org/10.2147/OAJSM.S281100.
  • Edmonds, Eric W., and Douglas D. Dengerink. “Common Conditions in the Overhead Athlete.” American Family Physician 89, no. 7 (2014): 537–41.
  • Shinde, Sandeep B., Shivanee K. Dalvi, and Ravindra V. Shinde. “Glenohumeral Translations in Overhead Workers with Sub-Acromial Impingement Syndrome: A Review.” International Journal of Occupational Safety and Health 13, no. 4 (2023): 548–59. https://doi.org/10.3126/ijosh.v13i4.51630.
  • Potskhveria, Vasil, Lela Maskhulia, Marina Matiashvili, Valeri Akhalkatsi, Irma Kvinikadze, and Natalia Pavliashvili. “Prevalence and Functional Impact of Shoulder Soft Tissue Injuries in Overhead Athletes during In-Season Management.” Turkish Journal of Physical Medicine and Rehabilitation 71, no. 4 (2025): 445–56. https://doi.org/10.5606/tftrd.2025.16371.