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神経フロッシング(Nerve Flossing)は本当に効くのか?

エビデンス・リスク・スポーツ現場での正しい使い方

痛みやしびれを訴える選手に対し、「神経を優しく動かすだけで症状が軽減する」
そんなアプローチを見たことはありませんか?

神経フロッシング(Nerve Flossing)は、坐骨神経痛・手根管症候群・頸椎神経根症・胸郭出口症候群など、神経の圧迫や滑走不全が関与する症状に対して、世界中の理学療法士・アスレティックトレーナーが使用しているテクニックです。

一方で、

  • 本当に効果はあるのか?
  • 神経を傷めるリスクはないのか?

という疑問も多く聞かれます。本記事では、最新の研究エビデンスをもとに、効果・限界・臨床での使い方を整理します。

神経フロッシングとは?|「伸ばす」ではなく「滑らせる」

神経フロッシングは、筋ストレッチとは異なり、神経を強く伸ばすのではなく、神経の通り道で滑走させることを目的とします。

神経が以下の状態になると、症状が出やすくなります。

  • 炎症
  • 周囲組織との癒着
  • 血流低下
  • 滑走性の低下

その結果として、

  • 痛み
  • しびれ・ピリピリ感
  • 感覚低下
  • 筋力低下
  • 可動域制限

といった神経症状が現れます。

神経フロッシングは、神経の滑走性と循環を改善し、刺激に対する過敏性を下げることを目的とした介入です。

 

スポーツ現場でよく使われる例

  • 坐骨神経痛
  • 手根管症候群
  • 頸椎神経根症
  • 脛骨神経障害
  • 大腿神経障害

エビデンスとしての見解は?|研究結果のまとめ

近年、神経フロッシングの有効性を検討した臨床研究が増えています。

主な研究結果

  • Daga et al., 2025
     頸椎神経根症の痛みが 83 → 2.63 に有意改善
  • Afzal et al., 2022
     95%信頼区間で痛み・機能障害の有意な改善
  • El-Nassag et al., 2025
     手根管症候群・脛骨神経障害で神経伝導と機能が改善
  • Hamed et al., 2021
     大腿神経障害でも有効性を示唆

全体の傾向

26〜54名規模のRCT・臨床試験(6〜7件)では、一貫して以下が報告されています。

  • 痛みの軽減
  • 神経伝導機能の改善
  • 可動域・機能の改善

👉 短期的な症状改善に対するエビデンスは比較的安定しているといえます。

重要な注意点|「安全性」に関するエビデンスは?

Nerve Flossingは治療法として有効であるという意見がある一方、症状によっては刺激が強すぎて、逆に神経を傷つける原因となってしまうという意見もあります。

現時点での大きな課題は、副作用・リスク評価を体系的に検討した研究がほぼ存在しないことです。

これは、

  • 「安全」という証明があるわけではない
  • 単に「リスクが検討されていない」

という意味です。

特に以下のケースでは注意が必要です。

  • 急性期の強い神経症状
  • 症状を再現するような強いテンション
  • 痛みやしびれが増加するやり方

👉 「優しく・症状を悪化させない範囲」での実施が前提になります。

スポーツ現場ではどう使うべきか?

エビデンスが示す適応例

  • 坐骨神経痛(Afzal et al., 2022)
  • 頸椎神経根症(Daga et al., 2025)
  • 脛骨神経障害(Satodiya et al., 2021)
  • 手根管症候群
  • 大腿神経障害(Hamed et al., 2021)

一般的なプロトコル例(Satodiya et al., 2021)

  • 週3〜5回
  • 2〜3週間
  • 1セット15回
  • セット間休憩:5分

200名以上を含む6研究の統合結果では、痛み・機能・神経伝導が統計的に有意に改善しています。

実践的ポイント(スポーツ選手)

  • 単独で使わない
  • 筋力トレーニング・モビリティ改善・動作修正と併用
  • 「症状が軽くなる感覚」があるかを必ず確認
  • トレーニング前後の反応を評価する

まとめ|神経フロッシングはやるべきか?

神経フロッシングは、神経由来の痛み・しびれ・可動域制限に対して有望なエビデンスを持つ介入方法です。

ただし、

  • 安全性の研究はまだ十分ではない
  • 強い刺激は逆効果になり得る

という前提を理解する必要があります。

< 覚えておくべき臨床原則 >

✔︎ 神経は「伸ばす」のではなく「滑らせる」

✔︎ 痛み・しびれを強く誘発するやり方はNG

✔︎ 他のリハビリ介入と組み合わせる

✔︎ 症状が悪化する場合は中止し、再評価する

< Reference >

  • Sandeep Daga, Aanchal, and Vaishali Kale. “Effectiveness of Nerve Flossing in Cervical Radiculopathy.” International Journal of Innovative Science and Research Technology, September 5, 2025, 1–7. https://doi.org/10.38124/ijisrt/25sep036.
  • Afzal, Mubushara, Sabrina Memon, and Ms. Sehrish. “TREATMENT OF SCIATICA BY NEURAL FLOSSING TECHNIQUE (NFT) IN ADULTS.” Pakistan Journal of Rehabilitation 11, no. 1 (2022): 5–10. https://doi.org/10.36283/pjr.zu.11.1/003.
  • El-Nassag, Bassam A, Nadia Mohamed Abdelhakiem, Ahmed S Abdelhamid, Rasha M EL-Marakby, and Shymaa Salem. “Short Term Effectevness of Tibial Nerve Flossing Technique in Patients With Tarsal Tunnel Syndrome.” Journal of Back and Musculoskeletal Rehabilitation 38, no. 6 (2025): 1446–57. https://doi.org/10.1177/10538127251338173.
  • Hamed, Somaia A., Ibrahim M. Zoheiry, Nevien Maher Waked, and Lama Saad El-Din Mahmoud. “Effect of Neurodynamics Nerve Flossing on Femoral Neuropathy in Haemophilic Patients: A Randomized Controlled Study.” Journal of Musculoskeletal & Neuronal Interactions 21, no. 3 (2021): 379–86.
  • Satodiya, Darshita, and Mansi Sanghvi. “Effect of Nerve Flossing Technique on Tibial Nerve Conductivity and Its Impact on Functionality in Tailors Using Mechanical Sewing Machine: A Randomized Controlled Trial.” International Journal of Science and Research (IJSR) 10, no. 10 (2021): 1289–93. https://doi.org/10.21275/SR211025104438.