Physio Academia:
Evidence-Based Article
子供の成長と
ウエイトトレーニング
< Key Points >
- ウエイトトレーニングをすると成長が止まるというのは迷信
- ウエイトトレーニングは骨の成長を促し、骨密度の向上にもつながる
- しかしリスクも伴うので、必ずプロのインストラクター監督の下行う
子供にはすくすくと健康に育ってほしい、全ての親の願いですよね。ただ、世の中には子供の成長にまつわるいくつかの迷信が、まことしやかに伝え継がれ、信じられています。その一つに、『子供の成長期には、ウエイトトレーニングを避けるべき』という説があります。成長期に負荷の高い運動を行う事は、骨の成長板への過度な負担となり、11歳から15歳にかけての成長を妨げるといわれています。しかし、この説を科学的にサポートする研究結果やデータは存在しません。正しいフォームで安全に行われるウエイトトレーニングは、逆に子供の成長と健康に良い影響を与える、と聞くと驚かれるかもしれません。しかし、他の運動や競技と同じく、適切な指導の下で安全に行われるウエイトトレーニングは、危険性はあるものの、その利点はリスクをはるかに上回ります。ここでは、8歳から15歳台の成長期に行うウエイトトレーニングの利点について見ていきます。
成長期とウエイトトレーニング:利点と欠点
成長期の子供と負荷トレーニングにまつわる迷信は、専門家によって科学的に否定されており、正しいウエイトトレーニングは、身体と骨を強くすることがわかっています。Pierce (2021) は、間違った方法でウエイトトレーニングを行うと、骨折や椎間板ヘルニア等、筋骨格系を痛める危険があるものの、正しい指導監督の下、年齢に見合った、安全に行われるウエイトトレーニングでは、ケガの危険性は非常に低いと述べています。あなたが成長期の子供を持つ親御さんであれば、ウエイトトレーニングを正しく行うための知識と、実際に行うテクニック、そして各々の子供に適切である負荷を知ることが大切です。
以下が、ウエイトトレーニングのもたらすいくつかの利点となります。
- 骨強度指数 Bone Strength Index (BSI) の上昇と骨密度の増加
- スポーツ関連のケガと骨折リスクの低下
- 体力と自己肯定感の上昇
迷信:ウエイトトレーニングをすると背が伸びなくなる?
ウエイトトレーニングが骨の健康と質量に良い影響をもたらすことは、科学的に証明されています。Lima (2001) は、ウエイトトレーニングは思春期の男子の骨質量に良い影響を及ぼすことを示しています。ただ、いまだに専門家の中には、過度のウエイトトレーニングが骨の成長と発育を阻害すると考える者もいます。しかし、正しい方法でウエイトトレーニングを行うことで、成長指標である血清オステオカルシン等が体内でより多く分泌されることがわかっており、ウエイトトレーニングはより良い骨の成長が期待できることがわかっています。French (2000) の研究では、カルシウムのサプリメントやウエイトトレーニングは大人、子供両者に良い影響があるとしています。
ウエイトトレーニングは何歳から?
子供にとってウエイトトレーニングが有益であることは理解したけれど、実際にいつ頃から始めるべきなのか、その判断は難しいですよね。子供のウエイトトレーニングの開始時期を決める際、本人の長期的なゴールを念頭に置いて、その子が心身両面で準備が出来ているかのアセスメントを行う必要があります。最近の研究 (Byrd 等) では、タナーステージ (Tanner Stages) を使用した、子供がウエイトトレーニングを始める心身の準備が出来ているかを、個別に判断する大切さと、エビデンスベースのトレーニングの重要性を強調しています。
身体年齢、そして精神年齢の観点から
子供がウエイトトレーニングを開始できる年齢は、早くて10-11歳と言われていますが、年齢のみで判断すべきではありません。タナーステージを参照し、思春期における第二次性徴の成熟度(女児では乳房の発達、男、女児の陰毛の発現等)の評価が必要です。この評価基準は年齢のみに頼らず、個々の身体的、精神的な成熟度を評価する上で役立ちます。
<指標としてのタナーステージ>
1-5段階に分けられるタナーステージは、子供がウエイトトレーニングを開始する準備が整っているかの評価に有効です。タナーステージ1-2段階は初期の第二次性徴です。タナーステージ4-5段階で、子供のホルモン分泌バランスの変化が始まるため、このステージに達した子供は生理学的成熟に到達したと判断できます。タナーステージの使用によって、コーチ、親、そしてアスリート本人が正しい情報を得、子供の長期的な健康とパフォーマンスを優先させた決断を下すことが可能です。
長期的アスリートの育成
Byrd 等の研究によると、計画的に構成されたトレーニングプログラム、ブロックエクササイズや、エビデンスベースのトレーニングが、若いアスリートを成功に導くことを示しています。
Byrd 等 は22-34ヶ月間、負荷トレーニングに参加した子供たちを観察する研究を行いました。その子供たちは、長期に渡るブロックピリオダイゼーションと、エビデンスベースのトレーニングを原則としたプログラムに参加しました。ブロックピリオダイゼーションとは、年間のトレーニングをいくつかの期間に分けて、それぞれのトレーニングの種類や量、強度を効率よく組み合わせて実施する手法です。この研究に参加した子供の多くは国内、国外のコンペティションで好成績を上げており、中には複数の世界大会での優勝や、オリンピック参加を果たした者もいます。この研究は綿密に建てられたプログラムと、長期的アプローチがいかに若いアスリートにとって有効か示すものでもあります。
ウエイトトレーニングが成長期の子供に及ぼす影響については、負荷トレーニングによる利点と、トレーニングがもたらす懸念を基に、多くの論議を呼んできました。きちんとした監督下で、安全に行われる限り、ウエイトトレーニングを開始する年齢に制限はありません。ただし、その開始時期は年齢のみで決めるのでなく、その子個人の準備が心身共に出来ているかの判断が大切です。あなたのお子さんがウエイトトレーニングに興味を示した際は、きちんと教育されたライセンスを持つトレーナー、又は成長期の子供専用のプログラムを作成、指導した経験のあるインストラクターや、理学療法士等、プロの監督と指導の下で行えるようにしてください。重い負荷をこなせるようになるには時間がかかります。じっくり、焦らずに時間をかけて鍛え上げていくことが、成長期の子供のウエイトトレーニング成功のカギとなります。
< Recommendation by Our Experts>
- ウエイトトレーニングは成長の妨げにはならず、筋肉だけではなく骨の成長を促す効果もあるのでおすすめ。
- 安全な環境下で行われる限り開始する年齢に制限はなく、心身ともに準備ができているのならば始めても良い。
< Reference >
- Pierce KC, Hornsby WG, Stone MH. Weightlifting for Children and Adolescents: A Narrative Review. Sports Health. 2022;14(1):45-56. doi:1177/19417381211056094
- Faigenbaum A, McFarland J. Relative Safety of Weightlifting Movements for Youth. Strength & Conditioning Journal. 2008;30(6):23-25. doi:1519/SSC.0b013e31817761c3
- Byrd R, Pierce K, Rielly L, Brady J. Young weightlifters’ performance across time. Sports Biomech. 2003;2:133-140.
- Stone MH, Hornsby WG, Haff GG, et al. Periodization and block periodization in sports: emphasis on strength-power training—a provocative and challenging narrative. J Strength Cond Res. 2021;35:2351-2371.
- Morris SJ, Oliver JL, Pedley JS, Haff GG, Lloyd RS. Taking a long-term approach to the development of weightlifting ability in young athletes. Strength Cond J. 2020;42:71-90.
- Pierce KC, Brewer C, Ramsey MW, et al. Youth resistance training. Prof Strength Cond J. 2008;10:9-23.
- Lima F, De Falco V, Baima J, Gilberto Carazzato J, R. Pereira RM. Effect of impact load and active load on bone metabolism and body composition of adolescent athletes: Medicine and Science in Sports and Exercise. 2001;33(8):1318-1323. doi:1097/00005768-200108000-00012
- Misra M. Bone density in the adolescent athlete. Rev Endocr Metab Disord. 2008;9(2):139-144. doi:1007/s11154-008-9077-1
- French SA, Fulkerson JA, Story M. Increasing Weight-Bearing Physical Activity and Calcium Intake for Bone Mass Growth in Children and Adolescents: A Review of Intervention Trials. Preventive Medicine. 2000;31(6):722-731. doi:1006/pmed.2000.0758
- Reich A, Jaffe N, Tong A, et al. Weight loading young chicks inhibits bone elongation and promotes growth plate ossification and vascularization. Journal of Applied Physiology. 2005;98(6):2381-2389. doi:1152/japplphysiol.01073.2004
- Karlsson MK, Vergnaud P, Delmas PD, Obrant KJ. Indicators of bone formation in weight lifters. Calcif Tissue Int. 1995;56(3):177-180. doi:1007/BF00298605
- Emmanuel M, Bokor BR. Tanner Stages. In: StatPearls. StatPearls Publishing; 2024. Accessed February 21, 2024. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK470280/