アーム
コンディショニング
プログラム

Arm
Conditioning
Program

 

オーバーヘッドアスリートのための

アーム・コンディショニングの考え方

 

野球、テニス、バレーボール、ハンドボールなどのオーバーヘッドスポーツでは、肩関節は常に極端な環境にさらされています。肩は人体の中で最も可動性の高い関節である一方、その自由度の高さゆえに、傷害リスクも非常に高い関節です(Letnar et al., 2020)。

オーバーヘッド動作では、肩関節は急速に挙上・外転・外旋され、その直後に強い減速ストレスを受けます。この「高速な加速と減速の繰り返し」が、オーバーヘッドアスリート特有の肩障害を生み出す大きな要因となっています(Letnar et al., 2020)。

そのため、アーム・コンディショニングは単なる筋力強化ではなく、肩を守りながらパフォーマンスを最大化するための戦略的トレーニングとして考える必要があります。

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オーバーヘッドアスリートに起こりやすい肩の特徴

 研究では、オーバーヘッドアスリートは競技特性上、肩関節の外旋可動域が増大しやすく、その一方で内旋可動域が低下しやすいことが示されています(Letnar et al., 2020)。

さらに、肩関節は単独で機能しているわけではありません。下肢、体幹、肩甲帯、上腕、前腕へと連なる運動連鎖(Kinetic Chain)の一部として働いています。この連鎖のどこか一箇所でも機能不全が生じると、エネルギー伝達が破綻し、その負担が肩や肘に集中することになります(Ellenbecker et al., 2020)。

つまり、肩の問題は「肩だけの問題」ではないということです。

エビデンスが示す重要なリスク因子

オーバーヘッドアスリートの肩障害および再発に関して、比較的一貫して報告されているリスク因子がいくつか存在します。Coolsら(2015)は、特に重要な因子として、①GIRD、②ローテーターカフ筋力(特に外旋筋)、③肩甲骨の位置および動きの異常(Scapular Dyskinesis)の3点を挙げています。

これらは単なる評価項目ではなく、リハビリテーションやReturn to Playの判断、さらには傷害予防プログラムを設計する際の基盤となる要素です。アーム・コンディショニングの目的は、これらの因子を個別に改善するのではなく、同時に統合的に整えることにあります。

研究と現場のギャップをどう考えるか

オーバーヘッドアスリートに対するエクササイズ介入を検討したシステマティックレビューでは、研究レベルで扱われている運動の多くが、肩挙上90度未満で行われる単一平面・比較的シンプルなエクササイズであることが報告されています(Wright et al., 2017)。

一方で、臨床現場や競技現場では、プライオメトリクスやスポーツ特異的動作、キネティックチェーンを統合した複雑なエクササイズが広く用いられています。これは、スポーツ動作そのものが多次元・高速であるため、単純な運動だけでは競技要求を十分にカバーできないという現実を反映しています(Wright et al., 2017)。

現時点でのエビデンスを正確に解釈するならば、強い科学的裏付けがあるのは基礎的なエクササイズであり、発展的トレーニングは専門家の臨床判断に依存する部分が大きい、という立場が最も誠実です。

傷害予防プログラムの現実的な位置づけ

肩の傷害予防プログラムに関するシステマティックレビューでは、傷害発生率の低下が示された研究は存在するものの、その数は限られており、エビデンスの質も一様ではないと報告されています(Wright et al., 2021)。

これは、「正しいトレーニングをすればケガは完全に防げる」という単純な話ではないことを意味します。しかし同時に、肩の筋力、柔軟性、肩甲帯機能に焦点を当てたコンディショニングが、傷害リスクを下げる可能性を持つことも示唆されています(Wright et al., 2021)。

トレーニング設計への示唆

これらのエビデンスを総合すると、オーバーヘッドアスリートのアーム・コンディショニングでは、ローテーターカフの機能的強化、肩甲骨の安定性、体幹や下肢を含めたキネティックチェーンの統合、そして内旋可動域を失わないための可動域マネジメントが重要であると考えられます(Letnar et al., 2020; Cools et al., 2015; Ellenbecker et al., 2020)。

重要なのは、「肩を鍛える」という発想から、「オーバーヘッド動作を支えるシステム全体を整える」という視点へシフトすることです。

まとめ(Evidence Aide

オーバーヘッドアスリートの肩は、高いパフォーマンスと高い傷害リスクが常に隣り合わせに存在します。エビデンスは、特定のエクササイズではなく、バランス・統合・段階性を重視したアーム・コンディショニングの重要性を示しています。

この考え方を理解することが、競技寿命を延ばし、安定したパフォーマンスを維持するための第一歩となります。

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< Reference >

  • Danila Kumar Primary School, Slovenia, and Bernarda Letnar. “STRENGTHENING AND STABILIZATION EXERCISES IN PREVENTION OF SHOULDER INJURIES.” Sportlogia 16, no. 1 (2020): 149–60. https://doi.org/10.5550/sgia.201601.en.bl.
  • Ellenbecker, Todd S., and Ryoki Aoki. “Step by Step Guide to Understanding the Kinetic Chain Concept in the Overhead Athlete.” Current Reviews in Musculoskeletal Medicine 13, no. 2 (2020): 155–63. https://doi.org/10.1007/s12178-020-09615-1.
  • Cools, Ann M., Fredrik R. Johansson, Dorien Borms, and Annelies Maenhout. “Prevention of Shoulder Injuries in Overhead Athletes: A Science-Based Approach.” Brazilian Journal of Physical Therapy 19, no. 5 (2015): 331–39. https://doi.org/10.1590/bjpt-rbf.2014.0109.
  • Wright, Alexis A, Eric J Hegedus, Daniel T Tarara, Samantha C Ray, and Steven L Dischiavi. “Exercise Prescription for Overhead Athletes with Shoulder Pathology: A Systematic Review with Best Evidence Synthesis.” British Journal of Sports Medicine 52, no. 4 (2018): 231–37. https://doi.org/10.1136/bjsports-2016-096915.
  • Wright, Alexis A., Brandon M. Ness, Megan Donaldson, Eric J. Hegedus, Paul Salamh, and Joshua A. Cleland. “Effectiveness of Shoulder Injury Prevention Programs in an Overhead Athletic Population: A Systematic Review.” Physical Therapy in Sport 52 (November 2021): 189–93. https://doi.org/10.1016/j.ptsp.2021.09.004.