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左右差は悪なのか?
― リハビリとスポーツにおける「右と左」の正しい読み取り方 ―
Key Points|まず知っておきたいこと
- 人間の身体や機能には、もともと左右差(asymmetry)が存在します。
- スポーツ選手の左右差も珍しいものではなく、左右差があるだけで「異常」「ケガの原因」とは言えません。
- 左右差の大きさは、テスト、測定項目、競技、個人、時期によって変わります。
- 「10%以上」「15%以上」などの数値を、すべての選手に共通する危険基準として使うことは適切ではありません。
- 大切なのは左右差をゼロにすることではなく、その左右差が現在の痛み・機能・競技パフォーマンスとどう関係しているかを考えることです。
人間はそもそも完全な左右対称ではない
私たちの身体は外見上は左右対称に見えます。
しかし、生物学的には左右が完全に同じではありません。
脳や神経系を含め、人間にはさまざまな左右差が存在し、左右の機能分化は生物学的に自然な特徴です。¹
この左右差は、すべてがスポーツや生活習慣によって後から作られるわけでもありません。
ヒト胚を調べた研究では、妊娠初期の脊髄や後脳ですでに左右の成熟過程に違いが確認されています。²
つまり、
「右と左が違う=身体に異常がある」
という考え方そのものを見直す必要があります。
スポーツでは左右差がさらに生まれやすい
スポーツでは、左右で異なる役割を求められることが珍しくありません。
例えば、
- ボールを蹴る脚と支持する脚
- 投球時の踏み込み脚と後脚
- ジャンプの踏切脚
- 切り返しで好んで使用する方向
などです。
そのため、筋力、ジャンプ能力、力発揮、バランスなどに左右差がみられること自体は不思議ではありません。
スポーツにおける左右差を検討したレビューでは、左右差は年齢、性別、競技レベルを問わず広く認められ、その大きさや方向はタスク、測定項目、競技、個人、さらには測定時期によっても変化することが示されています。³
したがって、
左右差が存在することと、その左右差が問題であることは別の話です。
左右差があるとケガをしやすい?
これは臨床やスポーツ現場で非常によく聞かれる疑問です。
現時点では、
「左右差が大きいほどケガをしやすい」と一律に結論づけることはできません。
6,228名、31研究をまとめたシステマティックレビューでは、下肢の機能的左右差とスポーツ傷害の関係について、
- 関連を認めなかった研究
- 一部のみ関連した研究
- 有意な関連を認めた研究
が混在していました。⁴
著者らは、左右差と傷害リスクとの関連を完全には否定できないものの、全体としてエビデンスの質は低〜中程度であり、研究方法も統一されていないとしています。⁴
つまり、
左右差は「リスク情報の一つ」になり得ても、それ単独で傷害を予測できる指標ではありません。
「15%以上なら危険」と考えてよい?
これも注意が必要です。
2023年の前向き研究では、415名のユーステコンドー選手を1年間追跡し、片脚カウンタームーブメントジャンプ(CMJ)の左右差が大きい選手ほど、非接触性下肢傷害のリスクが高いことが報告されました。⁵
特に男子では、ジャンプ高の左右差15.28%以上が傷害予測のカットオフとして示されました。⁵
これは興味深い結果です。
しかし、
「左右差15%以上=すべての選手にとって危険」
という意味ではありません。
この結果は、
- ユース選手
- テコンドー
- 片脚CMJジャンプ高
- 特定の研究集団
で得られたものです。
別の競技、年齢、筋力テスト、ホップテスト、バランステストなどに、そのまま同じ15%を当てはめることはできません。
左右差は「タスク依存」で考える
「利き脚」「非利き脚」という表現も、思っているほど単純ではありません。
ある人がボールを蹴るときに右脚を好んでも、
- ジャンプ
- 着地
- バランス
- 最大筋力
- 切り返し
でも右脚が常に優位とは限りません。
VirgileとBishopは、limb dominanceは**task-specific(タスク特異的)**であり、どの能力をどのテストで評価しているかを明確にする必要があると指摘しています。⁶
そのため、
1つのテストだけで左右差を見つけて、「これが原因だ」と判断することは適切ではありません。
では、左右差は無視してよいのか?
それも違います。
左右差が自然に存在するからといって、すべての左右差に意味がないわけではありません。
例えば、
- ケガの後に急に左右差が大きくなった
- 患側の筋力やパワーが明らかに低下している
- 左右差と本人の症状や動作制限が一致している
- リハビリ中に左右差が変化している
- 競技で必要な能力に大きな差がある
場合には、左右差は重要な臨床情報になり得ます。
重要なのは、
左右差そのものを診断するのではなく、その左右差が何を意味しているのかを考えることです。
評価では何を見るべきか?
左右差を解釈するときには、単に「何%違うか」だけではなく、以下のような要素を一緒に考える必要があります。
- 何のタスクか?
筋力、ジャンプ、バランス、ランニングなど - 何を測定しているか?
最大値、平均値、力、速度、パワーなど - 本人に症状があるか?
- ケガの前後で変化したか?
- 時間経過でどう変わっているか?
- 競技上、その左右差は自然なものか?
- 左右差が実際の機能を制限しているか?
つまり、
左右差は「修正すべきエラー」ではなく、「解釈すべき情報」です。
What We Know|現在わかっていること
- 人間には生物学的・機能的な左右差が存在する。¹˒²
- スポーツ選手にも左右差は広く認められる。³
- 左右差はタスク、測定項目、個人、競技、時期によって変化する。³˒⁶
- 左右差と傷害リスクの関連について、研究結果は一貫していない。⁴
- 特定の集団・テストでは傷害との関連が示される場合がある。⁵
What We Don’t Know|まだ十分にわからないこと
- すべての競技・選手に共通する「安全な左右差」の基準
- 10%や15%といった単一のカットオフが、どの状況でも有効なのか
- 左右差を小さくすること自体が傷害を予防するのか
- 左右差を小さくすれば競技パフォーマンスが向上するのか
- どの左右差が適応で、どの左右差が機能障害を示しているのかを単一のテストから判断する方法
アスリート・保護者・コーチ・トレーナーへのメッセージ
検査で「右と左が違う」と言われても、それだけで問題があると考える必要はありません。
むしろ重要なのは、
「どのテストで違うのか?」
「その差は症状やパフォーマンスに関係しているのか?」
「以前と比べて変化しているのか?」
という視点です。
左右差を見つけることがゴールではありません。
その左右差を、アスリート全体の状態の中で正しく解釈することが重要です。
< Take-Home Message >
左右差は、人間にとって自然な特徴であり、スポーツ選手ではさらに一般的です。
したがって、
「左右差がある=異常」
「左右差が大きい=ケガをする」
と単純に考えるべきではありません。
一方で、左右差を完全に無視することも適切ではありません。
大切なのは、左右差の数値だけを見るのではなく、
症状、機能、競技特性、タスク、外傷歴、時間経過
を合わせて考えること。
目標は「左右差をゼロにすること」ではなく、その人にとって必要な機能を最大化することです。
< Reference >
- Corballis MC. Bilaterally symmetrical: to be or not to be? Symmetry. 2020;12(3):326. doi:10.3390/sym12030326.
- de Kovel CGF, Lisgo S, Karlebach G, et al. Left-right asymmetry of maturation rates in human embryonic neural development. Biol Psychiatry. 2017;82(3):204-212. doi:10.1016/j.biopsych.2017.01.016.
- Afonso J, Peña J, Sá M, Virgile A, García-de-Alcaraz A, Bishop C. Why sports should embrace bilateral asymmetry: a narrative review. Symmetry. 2022;14(10):1993. doi:10.3390/sym14101993.
- Helme M, Tee J, Emmonds S, Low C. Does lower-limb asymmetry increase injury risk in sport? A systematic review. Phys Ther Sport. 2021;49:204-213. doi:10.1016/j.ptsp.2021.03.001.
- Guan Y, Bredin SSD, Taunton J, Jiang Q, Wu N, Warburton DER. Predicting the risk of injuries through assessments of asymmetric lower limb functional performance: a prospective study of 415 youth taekwondo athletes. Orthop J Sports Med. 2023;11(8):23259671231185586. doi:10.1177/23259671231185586.
- Virgile A, Bishop C. A narrative review of limb dominance: task specificity and the importance of fitness testing. J Strength Cond Res. 2021;35(3):846-858. doi:10.1519/JSC.0000000000003851.








