Physio Academia:
Evidence-Based Article
リハビリテーションにおける「痛み」の正しい考え方
― 良い痛みと、避けるべき痛みをどう見極めるのか ―
「痛みがある=ダメなこと」
そう思ってリハビリに不安を感じる人は少なくありません。
一方で、フィットネスやスポーツの世界では
“No Pain, No Gain” という言葉が今も根強く使われています。
では、リハビリテーションではどうでしょうか?
答えはシンプルです。
「No Pain, No Gain」はリハビリでは当てはまりません。
しかし同時に、「痛みが少しでもあってはいけない」わけでもない のです。
本記事では、
リハビリ中に感じる痛みを どう解釈し、どう付き合うべきか を、
科学的知見を背景にしながら、臨床的にわかりやすく解説します。
痛みは「敵」ではなく、身体からのメッセージ
まず大前提として理解しておきたいのは、
痛みは身体が発する重要な情報 だということです。
リハビリ中に生じる痛みの多くは、
いわゆる「ケガの痛み」とは少し意味合いが異なります。
研究では、リハビリ中に生じる痛みは
「ケア関連疼痛(Care-Related Pain)」と呼ばれ、
- 関節を動かす
- 固くなった組織を伸ばす
- 動作を再学習する
といった 回復過程そのもの に伴って生じることが多いとされています。
興味深いのは、
患者自身がこの痛みを 必ずしも否定的に捉えていない という点です。
多くの人は、
「少し痛いけれど、前に進んでいる感じがする」
「回復している途中だと分かる範囲なら受け入れられる」
と感じています。
つまり、
👉 すべての痛みが“悪いサイン”ではない
ということです。
痛みの「強さ」だけで判断してはいけない理由
リハビリ現場では、
「痛みを0〜10で評価してください」と聞かれることがよくあります。
もちろん、これは有用な指標です。
しかし、数字だけで判断するのは危険 です。
なぜなら、
- 痛みが強くても「許容できる」と感じる人がいる
- 痛みがあっても動作が改善している人がいる
- 逆に、数値が低くても動けなくなる人がいる
からです。
実際、術後やリハビリ中の患者を対象とした研究では、
痛みの強さと「動けるかどうか」「回復しているかどうか」は必ずしも一致しない
ことが示されています。
リハビリで本当に大切なのは、
- 痛みが 動作を妨げていないか
- 痛みが 回復を遅らせていないか
- 痛みが 日常生活にどう影響しているか
という 文脈(コンテクスト) です。
「許容されやすい痛み」と「注意すべき痛み」
では、実際にどう見分ければよいのでしょうか。
- 比較的「許容されやすい痛み」
-
-
- 運動中に出ても、終了後すぐに軽減する
- 動かすほど少しずつスムーズになる
- 翌日に強く残らない
- 可動域や動作の質が改善している
-
このような痛みは、
身体が新しい刺激に適応している過程 で起こることが多く、
リハビリの中では比較的問題になりにくいと考えられます。
- 注意が必要な「警告サインの痛み」
一方で、以下のような痛みは要注意です。
-
-
- 安静時や夜間にも続く
- 鋭い、電気が走るような感覚
- 腫れ・熱感・不安定感を伴う
- 痛みとともに動作が悪くなっていく
- 日を追うごとに悪化している
-
これらは、
組織への過剰な負荷や、神経の過敏化、炎症の悪化 を示している可能性があります。
慢性痛では「痛み=壊れている」とは限らない
特に慢性痛では、
痛みがあっても組織が壊れているとは限りません。
現代の痛みの科学では、
痛みは「脳が危険を予測した結果」と考えられています。
そのため、
- 組織は治っている
- 画像上は問題がない
- それでも痛みだけが残る
ということが起こります。
この場合、
大切なのは「痛みをゼロにすること」ではなく、
安全に動けるという感覚を身体と脳に再学習させること です。
「痛みがあっても運動していいのか?」という疑問
この問いに対する科学的な答えは、
「状況次第」 です。
慢性的な筋骨格系の痛みに対しては、
- 多少の痛みを伴う運動でも長期的な機能改善に悪影響はない
という報告があります。
ただし、
- 運動後に強い悪化が続く
- 疲労が抜けない
- 日常生活まで影響が出る
場合は、
負荷設定や回復戦略を見直す必要があります。
まとめ:リハビリにおける痛みの正しい位置づけ
リハビリ中の痛みは、
- 我慢すべきものでも
- 無視していいものでも
- すべて避けるべきものでもありません
重要なのは、
「この痛みは、回復を助けているか?
それとも妨げているか?」
という視点です。
その判断は、
患者一人で行うものではありません。
必ず専門家と対話しながら、個別に決めていくもの です。
< アスリート・指導者が覚えておくべき原則 >
✔ 痛みは数値だけで判断しない
強さだけでなく、動作・回復・生活への影響を見ましょう。
✔ 警告サインの痛みは我慢しない
痛みが増悪する場合は、必ず専門家に相談を。
✔ 慢性痛では「安全に動ける経験」が鍵
恐怖を減らし、少しずつ動ける範囲を広げていきましょう。
✔ 最終判断は必ず個別に
年齢、競技、既往歴、心理的要因を含めて判断してください。
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< Reference >
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