ローテーターカフ
(回旋筋腱板)
損傷

Rotator Cuff Injuries

ローテーターカフ(回旋筋腱板)とは、肩関節の上腕骨と肩甲骨をつなぐ4つの筋肉のことです。それぞれ棘上筋、棘下筋、小円筋、そして肩甲下筋と呼ばれ、肩関節の安定に重要な役割を担っています。肩関節は体の中で最も可動域の大きい関節であるため、この4つの筋のうちどれか一つでも損傷すると、深刻な肩の不安定と痛みを引き起こします。ローテーターカフ損傷は、特に投球動作を繰り返すアスリートに多く見られます。それは投球動作の減速時にかかる張力の過負荷と伸張性収縮によるストレスを何度も繰り返し受けることに起因します。深刻な場合、腱の部分断裂もしくは完全断裂を起こし、断裂の多くは後上方、棘上筋、棘下筋の上腕骨との結合部に見られると報告されています。また、コンタクトスポーツ等にてタックルを受け、肩から落下した際にローテーターカフの炎症が起きたり、その他の肩障害と併発することもあります。

    man with shoulder injury

    症状

    ローテーターカフ損傷の主な症状は以下の通りです。

    • 肩の外側から腕にかけて痛みがある
    • 肩の筋力低下
    • 関節可動域の低下
    • 腕の筋力低下、倦怠感
    • 腕を背中に回せない、もしくは物を高いところに持ち上げられない
    • 肩の痛みのため、日常生活内でできないことがある

      診断/評価

      Gray412

      診断には、怪我の既往歴や痛みのパターン、どのような状況で痛みがあるのか、そしてどれくらいの期間症状が続いているのかなどを確認します。ローテーターカフ損傷の38.9%が無症状で、41.4%が有症状のケースで部分断裂や完全断裂があると、超音波画像診断による研究で報告されています。損傷の程度や合併症があるかどうかを確認するため、また骨部への損傷がないかを診るために、X-RAY、超音波やMRIを使用して診断をするのがスタンダードとなっています。

          • 外観
            • 腫脹が見られることもある
          • 触診
            • 肩関節、もしくは大結節/小結節あたりの圧痛がある
          • 可動域
            • 可動域制限がある
            • GIRD(Glenohumeral Internal Rotation Deficit) が見られる
              *肩関節内旋の可動域が20度以上反対側と比較して低下していることを指し、筋性もしくは関節包の拘縮によるものとされている
          • スペシャルテスト
            • “Empty can test /Jobe test”:  (+) = 棘上筋
            • “Drop arm test”:  (+) = 棘上筋
            • “ER lag sign”:  (+) = 棘下筋と棘上筋
            • “Resisted ER”: (+) = 棘下筋
            • “Hornblower’s sign”: (+) = 小円筋
            • “Belly press test”:  (+) = 肩甲下筋
            • “Lift off sign”: (+) = 肩甲下筋

      治療法

      ローテーターカフ損傷と診断されると、まず手術をするか保存的治療で直すか、医師と相談して決定することになります。多くのケースが初めに保存的治療を試し、もし改善が見られなかった場合に手術が提案されます。もし完全断裂、またはそれに近い損傷であったり、その他の傷害を併発していたりする場合では、そのまま手術を選択されることもあります。

          • 安静;術後もしくは急性の怪我の際、しばらく安静にし、組織の回復を促しながら悪化を防ぎます。腕を持ち上げたり動かしたりしないよう、必要であればアームスリング(三角巾)をつけて保護します。安静期間の長さは怪我や組織の回復の程度によるので、ドクターに確認を得ます。短くて数週間、術後であれば6-8週間必要であるとされています。
        •  
          • リハビリテーション;リハビリは早期、中期、後期とフェーズを分けプログラムを組んでいきます。
            • [早期]痛みや炎症、腫れの緩和と関節可動域の回復が目的。痛みや炎症を引き起こすような行動は必ず控え、徐々に関節可動域を広げていく。水中リハビリテーションは可動域の回復、関節のコントロールや有酸素運動としてとても有効であり、推奨される。
            • [中期]ローテーターカフと、肩甲骨周りの筋力強化を始めていく。神経筋コントロールに集中し、関節近位の安定を優先させたのち、遠位の可動性を見ていく。肩甲骨のポジショニングが肩関節の病理に大きく関与しているため、動的静的な肩甲骨の位置を確認し、それに合わせたエクササイズを処方していく。OKC(Open Kinetic Chain)、CKC(Closed Kinetic Chain)のエクササイズどちらも用いて徐々にステップアップしていく。
            • [後期]さらに上級の筋力強化エクササイズ、そして筋持久力、動的安定性のためのドリル、そして運動競技特有の動きを取り入れていく。このステージではウェイトトレーニングへも完全に戻れるよう、医療スタッフ、コンディショニングスタッフと連携して慎重に行っていく。上肢のプライオメトリックエクササイズも準備ができていれば取り入れていく。
              **プライオメトリックでは、Eccentric pre-stretch, Amortization, Concentric contractionの3つのフェーズから構成されている。トレーニングを組む際にそれぞれを意識していけるよう心がける。
                • Eccentric pre-stretch(伸張性局面);筋腱内の筋紡錘やSECという組織が引き伸ばされ、その後の反応を引き起こすとされる、予備負荷をかけるフェーズ。 
                • Amortization(償却局面) 移行局面であり、伸張されたネガティブなワークから力を生み出し加速してくためのフェーズ。短ければ短いほどより効率的でパワフルである。
                • Concentric contraction(短縮性局面);エネルギーを放出する最後のフェーズ。上肢のプライオメトリックでは、両手から片手、そしてスタンスや環境を変えて強度を変化させていく。
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          • 注射;ステロイド注射、もしくはPRP注射がオプションとして医師から提示されることがあります。ステロイド注射は即効性があり、炎症を抑えるのに効果がありますが、組織の治癒としての効果はあまりありません。打ちすぎると腱の弱体化を引き起こすとされているので注意しましょう。PRP注射は組織の再生補助として勧められることもありますが、ローテーターカフ損傷に対して、その効果はまだ研究中であり信頼される結果は報告されていません。(*PRP注射;Plate Rich Plasma のことで、自分の体から採血し、攪拌、分離させ血小板を集め、それを患部に注入する再生医療のこと。自然な治癒を促進する手段として近年注目を集めている。)
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          • その他物理療法;電気治療やドライニードリングは、リハビリ早期から痛みの緩和、可動域回復などのサポートとして有効な手段であるとされています。
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          • 手術;損傷度合いや合併症の有無によりますが、関節鏡視下術による腱板縫合術が一般的であるとされています。手術をした際の予後は比較的良いと報告されていますが、再断裂するケースもあります。術後のスポーツ復帰は84.7%で、そのうち65.9%が術前と同等レベルで復帰できていると報告されています。

      競技復帰

      完全な競技復帰に至るには、怪我をする前の状態に戻っていることが望ましいですが、以下のことに気を付けていく必要があります。

      • 痛みがなく可動域が完全に回復していること
      • アスリートが十分なパワーを発揮でき、競技に必要な筋持久力があること
      • 競技スポーツに必要な運動が、問題なく繰り返しできること
      • 練習に完全復帰する前に、ステップを分け徐々に参加する(ウォームアップのみ、オフェンスのみ、ディフェンスコントロール、コンタクト無しから有り、投球回数の制限など)
      • 精神的に競技復帰できる準備ができていて、自信があること
      • 指導者や医療スタッフはきちんと練習を監視し、再発を招かないよう注意しておくこと

        予防

        競技復帰後も、トレーニングを継続することで再発リスクの軽減につながります。多くの可動域エクササイズやバンドエクササイズが場所を選ばずにできるものなので、ホームエクササイズとして日頃から取り入れるのが最も効果的であるとされています。以下の点は再発予防としてその他勧められていることです。

        • 痛みがある状態で、繰り返し肩を挙上する動作を控えること
        • ローテーターカフだけでなく、肩甲骨、そして体幹部のエクササイズに日頃から取り組むようにする
        • 良い姿勢を心がけ、肩甲骨の良い位置をキープできるようにする
        • 痛みのある肩を下にして横向きに寝ないようにする
        • 必要であればブレースやテーピングなどで保護すること

        ~ Reference ~

        • Narvani AA, Imam MA, Godenèche A, Calvo E, Corbett S, Wallace AL, Itoi E. Degenerative rotator cuff tear, repair or not repair? A review of current evidence. Ann R Coll Surg Engl. 2020 Apr;102(4):248-255. doi: 10.1308/rcsann.2019.0173. Epub 2020 Jan 3. PMID: 31896272; PMCID: PMC7099167.

        • Cotter EJ, Hannon CP, Christian D, Frank RM, Bach BR Jr. Comprehensive Examination of the Athlete’s Shoulder. Sports Health. 2018 Jul-Aug;10(4):366-375. doi: 10.1177/1941738118757197. Epub 2018 Feb 14. PMID: 29443643; PMCID: PMC6044121.

        • Weiss LJ, Wang D, Hendel M, Buzzerio P, Rodeo SA. Management of Rotator Cuff Injuries in the Elite Athlete. Curr Rev Musculoskelet Med. 2018 Mar;11(1):102-112. doi: 10.1007/s12178-018-9464-5. PMID: 29332181; PMCID: PMC5825345.

        • Davies G, Riemann BL, Manske R. CURRENT CONCEPTS OF PLYOMETRIC EXERCISE. Int J Sports Phys Ther. 2015 Nov;10(6):760-86. PMID: 26618058; PMCID: PMC4637913.