足底筋膜炎

Plantar Fasciitis

足底腱膜炎とは、足の裏の土踏まず(アーチ)を作る腱が反復運動により伸ばされ、炎症を起こしている状態のことです。元々は慢性の炎症性傷害として扱われていましたが、今では変性(組織の退化)を引き起こす腱疾患としてさまざまな治療法がリサーチされています。

足底腱膜は踵骨結節内側から五趾それぞれの基節骨に付着する強靱な結合組織です。それは内側・外側縦走繊維から、それぞれ内側と外側アーチが作られ、また横アーチの3つから構成されています。アーチにはWindlass機構という仕組み(踏み出す時に足趾が背屈することでアーチが引き上げられる)によりバネのように推進力を生み出すことができたり、Truss機構により着地時にクッションのように力を吸収したりすることができます。

足底腱膜炎と診断された人で、踵の骨に骨棘(骨がとげのように肥大してしまったもの)ができていることもあります。足底腱膜炎は40代に最も多いとされますが、どの年代にも起こるものです。スポーツでは、走ったり、ジャンプを繰り返すスポーツや、立ち仕事の人たちによく発症する傷害です。

足底腱膜炎を引き起こすリスク要因は以下とされています;

  • 年齢40歳以上
  • 仕事、スポーツ、趣味などで足部に過剰な負担をかけている
  • 急に無理な運動を始める、もしくは運動レベルを急に上げてしまう
  • ふくらはぎの筋肉の柔軟性不足
  • 体重の増加
  • 扁平足
  • ハイヒールや、踵やアーチににクッションの無い靴を履く
heel pain

症状

以下の状態で足底部、もしくは足裏の踵の骨の部分に痛みがある方は、足底腱膜炎の可能性があります。

  • 激しい運動後の足底の違和感や痛み
  • 朝、ベッドから起き上がった時の初めの一歩
  • 長時間の立ち仕事
  • 長時間座っていた状態から立ち上がった時
  • 運動の強度や時間を上げた時
  • クッションの薄い靴や裸足で歩いた時
  • 階段を昇り降りする時

アスリートによく見られる症状としては、運動開始直後の痛みや、トレーニングの終わり頃に再び痛みが増したりすることがあげられます。

    診断/評価

    foot examination

    診断には、怪我の既往歴や痛みのパターン、どの状況で痛みがあるのか、どれくらいの期間症状が続いているのかなどを確認します。基本的に足底腱膜炎は症状によって診断が下されますが、多くの場合X-RAYを使って骨棘が形成されてしまっていないか確認をします。もし急性の怪我でブツっと腱膜が切れるような音を感じた方には、MRIもしくは超音波を使ってどれくらいの損傷があるのか確認されることもあります。慢性の状態でも、4~6ヶ月の保存的治療で効果がなければ画像診断が必要とされる場合もあります。Bone ScanやNerves Conductionテストなども使い、足底部の痛みが骨腫瘍や骨折、その他の神経性の障害によるものでないか確認することもあります。

    • 外観
      • 腫脹はあることもないこともある。また繊維性の腫瘍(Fibroma)ができていることもある
      • 足部のアライメント異常があるかどうか
    • 触診
      • 踵の内側底部(アーチ起始部)に圧痛があるかどうか
    • 可動域
      • 足関節(距腿関節)の背屈制限があるかどうか
    • スペシャルテスト
      • Windlass test:(+)= 踵の内側底部に痛みがあらわれる
      • Tarsal tunnel(DF/Eversion) test :(+)= 神経痛があらわれる;足根菅症候群かどうかの判別のため
    • その他;急激な体重増加があるかどうか

    治療法

    • 安静と活動制限、調整
    • ストレッチ;炎症を起こして伸展性を失っている場合にストレッチは効果的である。とくに下腿三頭筋、ヒラメ筋、そして後脛骨筋など足首の背屈に大きく関わる筋肉の柔軟性を維持することが重要。
    • ストレングスエクササイズアーチをサポートする筋肉(特に内側;長母趾屈筋、長趾屈筋、母趾外転筋、短趾屈筋、後脛骨筋)を鍛えることで、腱膜、靭帯の負担を軽減することにつながる。特に長母趾屈筋は、弓矢の弦のようにアーチの底の部分をサポートするようなつくりになっているので重要である。また、後脛骨筋はアーチ形成に最も重要な筋肉で、この筋が損傷するとアーチが下がってしまうため、きちんと機能回復に働きかける必要がある。足部の神経運動機能がきちんと働き、足趾の動きがスムーズで歩行時にバランスがきちんと取れることも重要。
    • 冷却;痛みを緩和させる目的での使用は有効である。アイスパックもしくはアイスカップでマッサージする方法が一般的とされる。
    • イオントフォレシス;直流電流により患部にイオン薬を浸透させる物理療法。塗り薬よりも深く浸透させることができ、定期的に使用することで回復を促す方法。
    • インソール;不自然な足の動きを補正、足底にクッションを与え、さらにアーチをサポートすることで痛みやストレスを緩和。
    • テーピング;インソールと同じくアーチのサポートをすることで痛みとストレスの緩和につながる。
    • ナイトスプリント;就寝時に足首と指の位置を正しくキープすることで痛みを緩和させる。
    • 注射;医師からステロイド注射を提案されることもある。その際、超音波を使用して位置を確認しながらの施術が最も推奨されている。施術後の効果は高いが、無理をすると再発もしくは組織の弱体化を招き、腱断裂を起こすリスクがある。PRP注射はステロイド剤より効果があると報告している研究もあるが、コストや利用できる施設が限られていることもあり、まだ一般的な足底腱膜炎治療とはされていない。(*PRP注射;Plate rich plasma のことで、自分の体から採血し、攪拌、分離させ血小板を集め、それを患部に注入する再生医療のこと。自然な治癒を促進する手段として近年注目を集めている。)
    • 手術;数ヶ月間の保存療法で効果がない場合に手術が医師から提案されることもある。内視鏡などを使い、腱膜切離、骨棘を削っていく手法が一般的である。腱膜を切っても問題はないが、手術による治療には術後の感染症、神経損傷、慢性の痛みなどのリスクが伴ってくる。

      競技復帰

      足底腱膜炎を伴ったアスリートで、その後も過度な負担を継続してかけてしまう場合に、足底腱膜の断裂を引き起こしてしまうことがあります。そのため、トレーニングの負荷、頻度や強度をうまく調整しないといけません。トレーニングに思うように参加できないアスリートにとって、とてももどかしい状況になってきます。復帰のためにパフォーマンスやフィットネスを維持しつつ、競技特有の動きを取り入れるドリルなど、工夫して組み込んでいく必要があります。下半身に負荷をかけずに心肺機能を維持していくには、プールや、リカンベントバイク、アームバイク、ローイングマシーンなどが挙げられます。競技特有の動きは、荷重の調節ができる状態から取り入れ、練習の際は、部分的な、そして負荷の低めのものから参加させるのがいいでしょう。

      完全な競技復帰に至るには、怪我をする前の状態に戻っている状態が望ましいですが、以下のことを気を付けていく必要があります。

      • ウォーミングアップの時点で痛みがないこと、最小限であること
      • 下腿三頭筋の柔軟性がきちんと戻っていて、背屈制限があまりないこと
      • 踵重心で歩いてみて、圧痛がないこと
      • ジャンプやランニングのインパクト時に痛みがないこと
      • Windlassテストをして痛みがないこと
      • 練習の部分的なドリルを個別で試して、特に問題なく動ける状態であること
      • 精神的に競技復帰できる準備ができていて自信があること

       

      スポーツ特有の動きを含むトレーニング

      ある程度軽いジョグやランジ、ジャンピングなど、痛みがなく動けるようになり、機能が回復してきていたら、接触のないドリルから、そしていつでも練習をコントロールできるような環境下でスポーツ特有の動きを入れていきます。また、ディフェンスよりもオフェンスの動きの方がリアクションで動くことが少なく、安全に取り入れていくことができるので、その順番も調整していきます。

      競技復帰の際には、選手が不安なくプレーできる状態で、受傷エリアの機能制限の回復と、さらに心肺機能や体力がほぼ受傷前と同等であるレベルまで戻っていることが推奨されています。受傷以前の90%くらいの強度まで戻るのが理想とされています。

      また、復帰の準備ができているかどうかを確認するために、ファンクショナルテストを用いて評価することが推奨されています。シングルレッグバランステスト、Y-バランステスト、T-テストなど、もし受傷前のテストスコアがあれば比較することができます。

        予防

        予防として勧められていることは;

        • アーチと踵のサポートがしっかりされている靴を履く
        • アーチをサポートするテーピングや、ヒールカップなどを装着し、踵部を保護する
        • 靴を履き潰してしまう前に買い替える
        • 同じ場所に長時間立つことが多い人は、分厚いマットをひく
        • 運動する時にはきちんとウォームアップとクールダウンをし、急激な運動を避ける
        • ふくらはぎと足底の筋肉のストレッチ習慣を心がける

          ~ Reference ~

          • GUIDE: Physical therapy guide to plantar fasciitis. Choose PT. https://www.choosept.com/guide/physical-therapy-guide-plantar-fasciitis. Published March 25, 2020.
          • Petraglia F, Ramazzina I, Costantino C. Plantar fasciitis in athletes: diagnostic and treatment strategies. A systematic review. Muscles Ligaments Tendons J. 2017 May 10;7(1):107-118. doi: 10.11138/mltj/2017.7.1.107. PMID: 28717618; PMCID: PMC5505577.

          • Charlotte O’Leary BSc MBCB. Arches of the foot. Kenhub. https://www.kenhub.com/en/library/anatomy/arches-of-the-foot. Published June 30, 2022. Accessed November 10, 2022.

          • Windlass Test. Physiopedia. https://www.physio-pedia.com/Windlass_Test.