脳震盪

Concussion

脳震盪とは、スポーツなどで直接頭部に打撃を受けた際、もしくは頭部にかかった衝撃によって脳が頭蓋骨内でゆすられた時に起こる脳損傷、もしくはそれによって引き起こされる一時的な脳機能障害のことです。
受傷後に意識消失を伴う脳震盪は全体の10%以下と報告されていて、脳のどの部分への損傷か、また個人の基礎疾患や既往歴などにより、その症状は大きく変化します。脳震盪の症状は、受傷後すぐに現れる急性のものと、数分もしくは数時間後に遅れてあらわれる遅発性のものがあるため、頭部への外傷後は24−48時間は継続的に状態に変化がないかチェックしていく必要があります。
脳震盪を受けたアスリートの多くは、受傷後数日(7-14日程度)で症状はほとんど回復するとされていますが、うち15%は回復までに30日以上かかっていると報告されています。

Sports Injury

症状

脳震盪を起こすと様々な脳機能障害が引き起こされますが、主な主観的な症状は以下となります:

  • 頭痛
  • 頭が締め付けられるような感じ
  • めまい
  • 首に痛みがある
  • バランス能力の低下
  • 吐き気、嘔吐
  • 疲労感
  • 寝つきが悪い
  • 眠気
  • 視界がぼやける
  • 光に敏感になる(眩しく感じる)
  • 音に敏感になる
  • 霧の中にいるような感じ
  • 集中できない
  • 覚えられない
  • 混乱している
  • 感情的
  • 理由なく悲しい
  • 不安になる

*脳震盪後症候群とは、この頭痛やめまい、睡眠障害や疲労などの症状が何週間にもわたって持続される状態を指します。

診断/評価

Concussion

脳震盪の診断は、主観的な症状をもとに臨床的評価によってなされます。脳のCTスキャンやMRI検査は重度の損傷を除外するために使用されることもありますが、画像検査のみで脳震盪の有無を判断することは不可能です。画像検査で何も異常が見られない場合でも、脳震盪の症状が見られることが多くあるからです。

脳震盪の診断に使われる評価ツールとしてSCAT5が最も一般的で、プロレベルでも使用されています。また脳神経のスクリーン、VOMSという前庭器官のスクリーン、ImPACTテストなど、さまざまなツールを用いて総合的に脳の神経機能と認知能力を評価していきます。

スポーツの現場では、SCAT5もしくはImPACTテストなどを用いて、ベースラインテストをあらかじめシーズン開始前に記録しておきます。これにより脳震盪を起こしてしまった際に、もう一度同じテストを受けることで受傷前のスコアと比較し、どれくらい脳機能が回復しているか定量的に評価することができます。

治療法

脳震盪は脳の損傷であり、その脳に休息を与え回復を早めるため、睡眠は最も大切です。また、症状の悪化を促すような活動も控えるべきとされています。身体的に安静にしていても、細かい字を読んだり、テレビやスマートフォンをずっと見ていたりすることにより、映像や視覚から取り入れた情報を処理するプロセスが起こり、脳にとって負担のかかる活動となります。脳震盪からの回復期は基本的に日常生活範囲内でできる活動をし、もし症状が再び現れたり悪化してきた場合、それを控えるというのが原則です。学生で学校に行くことはできるけど、教科書を読んだりパソコンを使う作業が難しいようであれば、教師にそれを伝えて違う形でそのタスクをできるようサポートを受ける必要があります。

しかし極度に制限された生活も、社会からの疎外や活動レベルの低下により逆に症状を悪化させることにつながるとの報告もなされています。受傷後直後(24-48時間)の安静の後、きちんと管理された、個々に合わせた身体的および認知的活動のリハビリテーションを行うことは、ただ安静のみを医師から指示された場合よりも、脳震盪の症状回復の向上により効果があるとされます。

以下は症状が落ち着いてきてから安静以外でできる治療法です。

  • 前庭リハビリテーション

もし目眩やふらつきがなかなか改善しない場合には、前庭のリハビリテーションを専門とした理学療法を推奨される。耳の奥にある前庭が平衡感覚や頭の位置などを感知する器官であり、その機能を回復するためのリハビリや治療を受けることで症状改善を促す。

  • ストレッチやマッサージ

もし頭痛の原因が首の筋肉の緊張や受傷時の鞭打ちなどによるものであれば、ストレッチやマッサージなどは効果的である。頚椎に損傷がある場合では回復するまで推奨されないため、必ず医師に確認した上で行う。

  • 軽い有酸素運動

頭痛やめまいなど症状がない場合に、軽い散歩などの有酸素運動は脳震盪からの回復を促す。もし症状が悪化し始めたらそこで中止し、必要であれあば医師に報告する。

競技復帰

脳震盪と診断されたアスリートは、指定されたプロトコルを完了しないと競技復帰できません。
これはアメリカでのどのレベルのスポーツ協会からも指定があり、多少記述は異なるものの、ほとんどのプロトコルが5-6ステップにまとめられています。もしプロトコルの実施中に症状の再発や悪化が確認された場合、即座に活動を中止し、適切な医療従事者に再診を受ける、もしくはプロトコルのひとつ前のステップに戻らなければならない可能性があります。各ステップ、頭痛薬などの薬を使用していない状態で24時間のインターバルを置くことが原則、そして指定された活動後、症状の悪化がなければステップを上げ、経過観察しながら復帰するまで行っていきます。適切な時間を設けて徐々に競技復帰していくのが目的であるため、決してステップを飛ばしたり、指定されたこと以上の活動をすることは禁止されています。プロトコルを始める際には、医師の再診を受け、プロトコルを始めていいとの指示を得てから行ってください。

  • ステップ1;通常活動への復帰

身体的な競技復帰プロトコルを始めるにあたり、まず初めに制限なく普通の生活や授業を受けられるようになる必要がある。特に授業や課題に関して何もアシスタンスを必要とせず、問題なくできる状態であることが条件である。

  • ステップ2;軽い有酸素運動

心拍数を少し上げる程度の軽い有酸素運動を5-10分程度で行う。ステーショナリーバイク、早歩き、もしくは軽いジョギングなど。リフティングなどの無酸素運動はこのステージでは行われない。

  • ステップ3;中程度の運動

引き続きランニングなどの心拍数を上げるような活動と、体や首を動かすようなエクササイズをしていく。中程度のジョギング、ランニング、サイクリング、リフティングなど。強度や負荷は全て普段トレーニングで行うものよりも下げて行う。

  • ステップ4;ノンコンタクトドリル

接触のないスポーツの動きを取り入れたドリルを行う。パスやドリブルなどを行う球技であればボールを使った動き、そうでなければ高強度のステーショナリーバイクや通常のリフティングなどを行う。

  • ステップ5;コンタクトドリル、通常練習

通常の練習に参加することができる。監視、管理された環境下で、接触も含めたドリルを取り入れ、スキルの確認を行う。

  • ステップ6;試合復帰

制限なく試合復帰できる。復帰する際にプロトコルの完了を報告し、診断されたドクターからの許可を得ていることが条件である。

予防

一度脳震盪を起こすと再発を起こす可能性は高くなると報告されています。また脳震盪を受け、回復する前に再び脳に衝撃が与えられることをセカンドインパクトと言い、最悪の場合死に至る危険性があります。予防のためには以下のことが推奨されますが、必ず十分な休息期間を設け、確実に脳が回復してから運動を再開する必要があります。

  • 練習中はボールなどが飛んでこない安全なところにいる
  • サッカーのヘディングなど、頭部に衝撃が加わる動きは避けるか、制限する(復帰後)
  • 小さな頭痛なども見逃さず、症状がある場合医療従事者もしくは医師に報告し安静にする

~ Reference ~

  • Guide | Physical Therapy Guide to Concussion. Choose PT. Published August 26, 2021. https://www.choosept.com/guide/physical-therapy-guide-concussion
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