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リハビリテーションにおける「痛み」の正しい考え方

痛みはどこまで許容できる?運動中の痛みをどう判断するか

Key Points|まず知っておきたいこと

  • 痛みがある=組織が傷ついているとは限りません。
  • 一方で、痛みをすべて無視してよいわけでもありません。
  • リハビリ中に多少の痛みが生じても、必ずしも回復を妨げるとは限りません。
  • 痛みを出すこと自体が治療効果を高めるわけでもありません。
  • 痛みの数字だけではなく、動作、機能、運動後の反応、翌日の状態などを含めて判断することが重要です。

痛みは「ダメージ量を測るメーター」ではない

「痛い=身体が壊れている」

と考えてしまう人は少なくありません。

しかし現在の痛み科学では、痛みはそれほど単純ではありません。

International Association for the Study of Pain(IASP)は、痛みを

実際または潜在的な組織損傷に関連する、あるいはそれに似た、不快な感覚的・情動的経験

と定義しています。¹

重要なのは、Pain(痛み)とNociception(侵害受容)は同じものではないという点です。¹

組織から危険を知らせる信号が多ければ痛みが強くなる場合もありますが、痛みは、

  • 組織の状態
  • 過去の経験
  • 睡眠
  • ストレス
  • 不安や恐怖
  • その動作に対する考え方
  • 周囲の環境

など、多くの要因から影響を受けます。

つまり、

痛みは非常に重要な情報ですが、組織損傷の大きさをそのまま表す数値ではありません。

研究エビデンス、臨床家の専門性、患者の価値観を統合して意思決定するEBPの三要素

リハビリ中に痛みが出ることは珍しくない

関節を動かす。

硬くなった組織を伸ばす。

筋力トレーニングをする。

手術後に歩行を再開する。

こうしたリハビリの過程で、一時的に痛みが生じることがあります。

整形外傷後のリハビリ患者を対象とした研究では、このような**Care-Related Pain(ケアに伴う痛み)**は珍しいものではなく、患者自身が一定範囲の痛みを「回復の過程」として受け入れている場合もありました。²

したがって、

リハビリ中に痛みが出た=必ず運動を中止しなければならない

とは限りません。

ただし、「痛ければ効いている」という意味でもありません。

No Pain, No Gain」は必要ない

スポーツやトレーニングでは、

No Pain, No Gain

という言葉がよく使われます。

しかし、リハビリテーションにおいて痛みは効果を得るための必須条件ではありません。

2025年に発表された最新のシステマティックレビュー・メタアナリシスでは、慢性筋骨格系疼痛を持つ成人に対する痛みを伴う運動と、痛みを避けた運動を比較した16試験が検討されました。³

その結果、痛み、障害、その他の患者報告アウトカムについて、短期・中期・長期のいずれでも明確な優劣は認められませんでした。³

つまり、

痛みが多少あっても運動できる場合はある。
しかし、わざと痛みを出す必要もない。

というのが、現在のエビデンスに最も近い考え方です。

研究エビデンスを関連性や適用可能性から評価し、個々の患者に適用する流れを示す図

痛みは「010」だけで判断しない

リハビリでは、

「痛みは0〜10でいくつですか?」

と聞かれることがあります。

痛みの強度を追跡するうえでは有用ですが、数字だけですべてを判断することはできません。

術後患者9,000名以上を調べた研究では、痛みが強くても「許容できる」と答える患者や、必要な活動を行える患者が存在する一方、比較的低い痛みでも受け入れられない患者がいました。⁴

つまり、

Pain Score ≠ Function

です。

リハビリでは痛みの強さに加えて、

  • 動作ができるか
  • 動作の質が悪化していないか
  • 日常生活にどの程度影響するか
  • 運動後に症状がどう変化するか
  • 本人がその痛みを許容できるか

などを見る必要があります。

研究集団の平均的な結果を、症状・競技・年齢・目標・環境が異なる個人へ適用する概念図

「許容できる痛み」はどう考える?

すべてのケガや疾患に共通する、

○/10までは安全」

という万能な基準はありません。

組織の治癒段階、手術内容、診断、年齢、競技、症状のメカニズムなどによって許容できる負荷は変わります。

そのため、痛みの数字だけではなく、症状の反応パターンを見ることが実践的です。

運動中

  • 痛みは本人にとって許容可能か?
  • 動作が大きく崩れていないか?
  • 痛みが急激に強くなっていないか?

運動後

  • 痛みが徐々に落ち着いてくるか?
  • 新しい腫れや著しい機能低下が出ていないか?

その後〜翌日

  • 症状が元のレベルに戻る方向にあるか?
  • 日常生活や次のトレーニングを大きく妨げていないか?
  • 回復を重ねる中で、全体として機能が改善しているか?

これらは万能な診断基準ではありません。

しかし、

「運動中に何点痛かったか」だけを見るよりも、痛みに対する身体全体の反応を見る

という考え方が重要です。

慢性痛では「痛み=再損傷」とは限らない

長期間痛みが続く場合には、さらに注意が必要です。

痛みが慢性化すると、組織の状態だけではなく、

  • 神経系の感受性
  • 動作への恐怖
  • 過去の経験
  • 睡眠
  • ストレス
  • 心理社会的要因

などが症状に影響する可能性があります。⁵

そのため、

痛みが残っている=組織が治っていない

とは限りません。

これは、「痛みは気のせい」という意味ではありません。

痛みは常に本人にとって現実の経験です。¹

慢性痛のリハビリでは、症状だけを追いかけるのではなく、

安全にできる活動を少しずつ増やし、身体への信頼や機能を取り戻すこと

が重要になることがあります。⁵˒⁶

臨床家の専門性とアンカリング、確証バイアス、利用可能性バイアス、過信などの認知バイアスを示す図

「痛みを我慢する」のと「安全に負荷をかける」のは違う

ここは非常に重要です。

リハビリで多少の痛みを許容することと、

「痛いけれど、とにかく我慢して続ける」

ことは同じではありません。

運動負荷は、患者の反応を見ながら調整する必要があります。

特に、

  • 痛みが急激に強くなる
  • 運動するほど機能が低下する
  • 新しい著明な腫れ・熱感が出る
  • 明らかな筋力低下やしびれなど新しい神経症状が出る
  • 新しい外傷後に体重をかけられない
  • 症状が日を追うごとに明確に悪化する

といった場合には、単純に「慣れれば大丈夫」と考えず、負荷の変更や再評価が必要です。

急性期と慢性期では考え方が違う

「痛みがあっても動いてよい」という情報を、すべての状況に当てはめることも危険です。

例えば、

  • 骨折
  • 手術直後
  • 急性靭帯損傷
  • 腱修復術後

などでは、組織の治癒や医学的な制限を守ることが非常に重要です。

一方、慢性筋骨格系疼痛では、痛みを完全に避けようとすることで活動量が減り、機能回復の妨げになる場合もあります。

つまり、

痛みに対する正しい対応は、診断・治癒段階・患者の状態によって変わります。

これが、単純な「痛い=止める」「痛くても続ける」というルールでは不十分な理由です。

エビデンス、患者評価、目標と価値観、治療選択、反応の確認、調整を繰り返すEvidence-Based Practiceの臨床判断サイクル

What We Know|現在わかっていること

  • 痛みと組織損傷は1対1の関係ではない。¹
  • リハビリ中に一時的な痛みを経験することは珍しくない。²
  • 慢性筋骨格系疼痛では、運動中の痛みを必ずしも完全に避ける必要はない。³
  • 一方、痛みを伴う運動が痛みのない運動より優れているとは証明されていない。³
  • 痛みの強さだけでは、機能や痛みの許容度を十分に判断できない。⁴
  • 慢性痛では、個人に合わせた運動と回復戦略が重要である。⁵˒⁶

What We Don’t Know|まだ十分にわからないこと

  • すべての疾患に共通する「安全な痛み」の数値
  • 何点までの痛みなら必ず安全なのか
  • 痛みを伴う運動が特に有効な患者は誰なのか
  • 個人ごとに最適な運動中の痛みレベル
  • 運動後の症状反応を評価する万能な時間基準

だからこそ、個別の症状と反応を観察する必要があります。

アスリート・保護者・コーチ・トレーナーへのメッセージ

リハビリ中に少し痛みが出ても、それだけで「悪化した」と考える必要はありません。

一方で、

「痛いほど効いている」

と考える必要もありません。

確認したいのは、

その痛みは許容できるか?
動作や機能を悪化させていないか?
運動後や翌日にどう反応しているか?
全体として少しずつできることが増えているか?

です。

< Take-Home Message >

 

リハビリテーションにおける痛みは、

すべて避けるべきものでも、
我慢すべきものでもありません。

痛みは大切な情報ですが、痛みの強さだけで身体の状態や回復を判断することはできません。

そして現在の研究では、

痛みがあっても運動できる場合はある。
しかし、痛みを出すこと自体がゴールではない。

ことが示されています。

大切なのは、

痛み 機能 動作 負荷 運動後の反応 時間経過

を一緒に見ること。

リハビリの目的は「痛みに耐えること」ではなく、安全に必要な機能を取り戻すことです。

PA Pain

<PDF File>

< Reference >

  1. Raja SN, Carr DB, Cohen M, et al. The revised International Association for the Study of Pain definition of pain: concepts, challenges, and compromises. Pain. 2020;161(9):1976-1982. doi:10.1097/j.pain.0000000000001939.
  2. Favre C, Dériaz O, Hanon R, Luthi F. Care related pain in rehabilitation after orthopedic trauma: an exploratory study with qualitative data. Ann Phys Rehabil Med. 2015;58(3):132-138. doi:10.1016/j.rehab.2014.08.005.
  3. Tran I, Gibbs MT, Yu N, Powell JK, Smith BE, Jones MD. Effectiveness of painful versus nonpainful exercise on pain intensity, disability, and other patient-reported outcomes in adults with chronic musculoskeletal pain: an updated systematic review with meta-analysis. J Orthop Sports Phys Ther. 2025;55(8):1-11. doi:10.2519/jospt.2025.13253.
  4. van Boekel RLM, Vissers KCP, van der Sande R, Bronkhorst E, Lerou JGC, Steegers MAH. Moving beyond pain scores: multidimensional pain assessment is essential for adequate pain management after surgery. PLoS One. 2017;12(5):e0177345. doi:10.1371/journal.pone.0177345.
  5. Daenen L, Varkey E, Kellmann M, Nijs J. Exercise, not to exercise, or how to exercise in patients with chronic pain? Applying science to practice. Clin J Pain. 2015;31(2):108-114. doi:10.1097/AJP.0000000000000099.
  6. Lotze M, Moseley GL. Theoretical considerations for chronic pain rehabilitation. Phys Ther. 2015;95(9):1316-1320. doi:10.2522/ptj.20140581.