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西洋鍼:

ドライニードルとは

< Key Points >

  • ドライニードルは、筋肉に直接アプローチをし、痛みの軽減と機能改善を目的とする。
  • 東洋鍼は、経絡にアプローチをし、身体全体の気の流れを変えて状態改善を目的とする。
  • ドライニードルは近年着目され始め、アスリートのコンディショニングやリカバリーの手段としても用いられている。

ドライニードル』という言葉を聞いたことはありますか?これは健康やフィットネス、そしてリハビリの分野で最近ますます話題になってきている、鍼を用いた治療法です。

欧米で広く普及しているこの特殊な技術は、極細の鍼をターゲットとなる特定の筋肉、結合組織、又は筋膜のへ差し込み、直接刺激することで筋肉の緊張を和らげ、神経筋骨格系の痛みの緩和、可動域の改善などを目的とします。点滴や注射と異なり、薬剤などを注入しないため、『ドライ』ニードルと呼ばれます。欧米では主に、理学療法士が行うことが多いのですが、日本では医師、もしくは鍼灸師のみが施術を許されています。近年、ドライニードルの研究が多く行われるようになり、広範囲にわたる治療の有効性が認められるようになってきています。

ドライニードル

ドライニードルと鍼治療はどう違うのか?

ドライニードルと鍼治療の違いを理解するために、まず双方の核となる理論的基礎の違いを見てみましょう。ドライニードルは超極細の鍼を筋肉のトリガーポイントにさし込むことで、痛みの緩和や可動域の改善を図ります。この治療法は神経根障害や、トリガーポイントモデルとして知られる「痛みの科学」がベースとなっています。(Dommernholt, 2006; Dommerholt, 2011) 対照的に鍼治療は、Meakins (2016) が述べるように、超極細の鍼を身体の要所とされる「経絡」、いわゆる「ツボ」にさすことで体内のエネルギーの流れ、「気」を整えます。この伝統的な東洋医学は何千年もの間、様々な症状、特に筋骨格系の痛みの治療に使用されてきました。 (Pyne, 2008) 要するにこの二つの療法の違いは、理論的基礎と目的の違いにあるといえます。ドライニードルが、局所の筋骨格の緊張と痛みの緩和を目的とするのに対し、鍼治療は身体全体のエネルギーの流れを整えることを目的としています。

ドライニードルは何に効くのか?

近年、ドライニードルの有効性を示す研究結果が多く出ており、この治療法の適応範囲も広がりつつあります。血行の改善、神経伝導速度の上昇、コラーゲン増殖、局所酸素飽和度の改善、関節可動域や筋力等の改善が見られた他、短期の痛みの緩和にもドライニードルの有効性が示されています。(Dunning, 2014; Zhou K, 2015) 更に、ドライニードルと併せて微弱な電気刺激を与えることで、体内のベータエンドルフィンの上昇と、コルチゾールの減少が認められ、更なる鎮痛効果が得られる事が報告されています。いくつかの研究報告では、ドライニードルで最善の結果を得るための包括的なアプローチとして、他の療法、例えば痛みを正しく理解する「痛みの教育(Pain-Neuroscience Education)」や、段階的な運動療法、そして徒手療法を併せて行うことを勧めています。 (Femández-de-las-Peñas, 2019) 

Pain Relieve
Conditioning

ドライニードルは現在どのように使われているのか?

ドライニードルの研究が進むにつれ、この療法の多目的で応用性のある側面が、広く筋骨格系や神経系の症状、例えば変形性膝関節症、梨状筋症候群、足底筋膜炎などの治療に適応されるようになってきています。一般的に、ドライニードルはこれらの症状の亜急性期、又は慢性期に使用されていますが、中には急性期のマネジメントに使用した例も報告されています。更に、この療法の特徴である組織特異性に注目し、アスリートの試合前に施術してパフォーマンスの向上を図る、又は試合後の施術により、リカバリー効果を得ることが期待されます。

ドライニードルは効果的かつ多目的な療法の一つとして、健康、フィットネス、リハビリの分野にて、近年注目を浴びています。伝統的な東洋鍼と異なり、ピンポイントで特定の筋骨格系や神経系へ直接アプローチして症状の緩和を図ります。その筋肉に直接アプローチするというスポーツ分野との相性の良さから、アスリートのコンディショニングやリカバリーケアなどの分野で活躍がみられ、今後ますます発展することが期待されるでしょう。

< Reference >

  • Dommerholt J, Mayoral Del Moral O, Gröbli C. Trigger Point Dry Needling. Journal of Manual & Manipulative Therapy. 2006;14(4):70E-87E. doi:1179/jmt.2006.14.4.70E
  • Dommerholt J. Dry needling — peripheral and central considerations. Journal of Manual & Manipulative Therapy. 2011;19(4):223-227. doi:1179/106698111X13129729552065
  • Meakins A. Acupuncture: what’s the point? Br J Sports Med. 2017;51(6):484-484. doi:1136/bjsports-2016-096248
  • Pyne D, Shenker NG. Demystifying acupuncture. Rheumatology. 2008;47(8):1132-1136. doi:1093/rheumatology/ken161
  • Dunning J, Butts R, Mourad F, Young I, Flannagan S, Perreault T. Dry needling: a literature review with implications for clinical practice guidelines. Phys Ther Rev. 2014;19(4):252-265. doi:1179/108331913X13844245102034
  • Zhou K, Ma Y, Brogan MS. Dry needling versus acupuncture: the ongoing debate. Acupunct Med. 2015;33(6):485-490. doi:1136/acupmed-2015-010911
  • Fernández-de-Las-Peñas C, Nijs J. Trigger point dry needling for the treatment of myofascial pain syndrome: current perspectives within a pain neuroscience paradigm. JPR. 2019;Volume 12:1899-1911. doi:2147/JPR.S154728