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Evidence-Based Article

ケトジェニック
ダイエットと
アスリート

< Key Points >

  • 健康面での利点とリスクケトダイエットは、減量、腸内環境の改善に循環器系を健康に保ち、癌治療の補助として役にたつと考えられていますが、脂質異常症や糖尿病性ケトアシドーシスなどのリスクもある
  • スポーツパフォーマンスへの影響は不確定:中高強度の短時間運動を伴うスポーツのパフォーマンス向上に効果的であると述べる研究もあれば、全く影響しないと述べるものもある。
  • パーソナルダイエットプラン:食事の体への影響はその人それぞれ。自身の体の状態とダイエットの目的とを照らし合わせつつ、専門家と相談して計画を立てましょう。

近年、ダイエットに効果的ということで人気を集めていますが、ケトジェニックダイエットという言葉を聞いたことはありますか?このダイエットは、炭水化物を含む食品の摂取を極度に抑えた上で、高脂質、そして中程度のタンパク質の食品を多く摂取する食事療法です。その結果、体が炭水化物の代わりに脂肪をエネルギーとして燃焼するようになり、ダイエットにつながる、という理論から成り立っています。

一般の日本人は、普段の摂取カロリーの50-60%を炭水化物から、20-30%を脂質からとっています。しかし、このダイエットでは、炭水化物は摂取カロリーのわずか5-10%、その代わり脂質は摂取カロリーの55-60%を占めます。この数字だけを見ても、ケトダイエットが普段の食生活とは随分違うということは想像できるでしょう。

興味深いことに、ケトダイエットはダイエット目的以外にも様々な病状の療法の一つとして用いられています。例えば、The Neurologist誌にて発表された研究では、ケトダイエットは難治性てんかんの治療の一環として、比較的安全で効果的である可能性があるとしています。ケトダイエットは小児てんかんの治療法の一つとして、1920年代から使われてきました。しかし、このダイエットがどのように作用しててんかんの発作を抑えるのかの機序は未だによくわかっていないため、この療法を標準的なてんかん治療法の一環として採用するには、更なる研究が必要な様です。

この記事では、ケトダイエットの一般使用に対する安全性と、考えられる利点、リスク、そしてこのダイエットがアスリートのパフォーマンスに及ぼす影響について見ていきます。

ケトジェニックダイエットは健康に良いの?

ケトダイエットには良い点がいくつかあります。ジャーナル誌 Nutrientsによると、ケトダイエットは以下のような効果が期待できるとされています。

 

減量を助ける

ケトダイエットが減量時に有効なのには、いくつか理由があります。例えば、Current Nutrition Reportは、ケトダイエットが体の余分な脂肪の分解を促し、インスリン感受性を改善するのに役立つと述べています。また、体に良い脂質と、プロテインを多く含む食事は、空腹感を和らげ満腹感を促すため、ダイエットに効果的です。British Journal of Nutritionに掲載されたメタ分析によると、一年間のケトダイエットを行った人は、一年間低脂肪ダイエットをした人と比べて、平均2ポンド(約900グラム)以上体重が減少したとしています。このように、ケトダイエットは減量効果が期待されるため、肥満が原因で発症することの多いⅡ型糖尿病のリスク軽減に役立つ可能性が示唆されています。

腸内環境の改善

毎日の食生活は、腸内細菌叢と腸全体の健康に大きな影響を与えます。ケトダイエットが腸内細菌に及ぼす影響についての研究はまだ限られていますが、いくつかのエビデンスは、ケトダイエットが腸内細菌やエピゲノムに良い影響を及ぼし、腸内細菌の多様性を高める可能性を示唆しています。 

循環器系の健康の改善

ケトダイエットは高脂肪ダイエットですが、同じ脂肪でもベーコンやステーキ、バターではなく、オリーブオイルやナッツ、アボカドなど、体に良い脂肪を選んで摂取することで、コレステロール値の改善に役立つとされています。Nutrients誌に掲載された論文によると、ケトダイエットを実践する人の中には、総コレステロール、LDL(俗にいう悪玉コレステロール)や中性脂肪が大幅に減少したケースも報告されています。

特定の癌のリスクが減少する可能性

いくつかの研究では、ケトダイエットと癌の予防、又は治療との関連に焦点が当てられています。例えばある研究では、ケトダイエットが従来のがん治療である化学療法や、放射線療法と安全に併用できる、サポート的な療法として役立つ可能性を示しています。Aging誌に発表された研究では、ケトダイエットが血糖値を下げ、肝臓にケトン体を産生させる可能性について述べています。癌細胞はケトン体をエネルギーとして使用できないため、癌がエネルギー不足に陥り、その結果癌の増殖や増大能力を低下させる可能性があります。しかし、ケトダイエットを癌患者に勧めるかどうかの結論を出すには、更なる研究が必要です。

減量
腸内環境改善
良質な油
頭痛
便秘

ケトジェニックダイエットのリスクについて

上記のように、ケトダイエットには、慢性疾患の短期的改善など、いくつかの利点がありますが、もちろんリスクも伴います。

・脂質異常症

・糖尿病性ケトアシドーシス

・低血糖

・頭痛

・吐き気

・便秘

既に何か持病をお持ちの方は特に、ケトダイエットを始める際、医師や専門家と相談されることをお勧めします。

ケトジェニックダイエットのアスリートへの影響

ケトダイエットがアスリートのパフォーマンスに及ぼす影響については、まだはっきりしたことはわかっていません。いくつかの研究は、体の筋肉量を減らさずに体重と体脂肪を減少させたと発表しています。しかし、その体組成の変化がアスリートのパフォーマンスにどう影響したのかについては明らかではありません。他の研究では、中程度から高強度の短時間運動を行う際に、パフォーマンス向上の効果があると述べているものもあれば、Journal of Education, Health, and Sportの記事では、ケトダイエットはスポーツのパフォーマンスに影響を与えるHRmax、疲労時間、VO2max、等にあまり影響を及ぼさない、という研究も出ています。

ケトダイエットとアスリートのパフォーマンスとの関連についての研究はまだ限られており、まちまちの結果が出ています。利点のある可能性を示すものもあれば、そうでないとする研究もあります。ただ一つはっきりと言えることは、ケトダイエットが、アスリートのパフォーマンスに及ぼす影響について判断するには、更なる研究が必要だという事でしょう。

まとめ

高脂質、中タンパク、低炭水化物のケトジェニックダイエットは、ダイエットを助けるなど、いくつかの利点があるかもしれません。しかし、この食事療法は勿論リスクもあるので、全ての人にお勧めの理想的なダイエットプラン、というわけではありません。体の筋肉量を減らすことなく、体脂肪を減少させてくれる可能性は魅力的ではありますが、ケトダイエットによる体組成の変化と、運動パフォーマンスの関連性については今後、更なる研究が必要です。あなたの食事習慣を大きく変えるダイエット。始める前に、必ず医師や栄養士などの専門家とよく相談したうえで、あなたに最善のプランを選ぶことをお勧めします。

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