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Evidence-Based Article

その痛み、
冷やす?
それとも温める?

< Key Points >

  • アイシングは炎症や痛みを抑え、急性期の怪我やそのリカバリーに適しているが、その効果の程度は時と場合により多様。
  • ホットパックは血行を良くし、慢性的な組織の凝りや痛みに効果的で、運動前のウォームアップとしても適している。
  • どちらの治療法も、肌へのダメージやその他のリスクも伴うため、使用の際は専門家に意見を聞くことが大切である。

普段生活をしていると、肩こりや筋肉痛、腰やその他の関節の痛みなどを経験することって、誰にでもありますよね。そんな時、ある専門家は『冷やすと良い』といい、また別の専門家は『温めると良い』という、なんて状況に陥ったことはありませんか。実際のところ、どちらがいいのでしょうか?

ホットパック(温熱療法)とアイスパック(寒冷療法)、そのどちらをいつ使うのか、という判断は結構難しいですよね。それもそのはず、実はどちらの治療法が、どの場合により効果的なのか、現段階では決定的な結論が出ていないのです。

ここでは、ホットパックとアイスパックについてわかりやすく解説し、現段階での研究を用いて、どちらがどの場合に、より効き目を発揮しそうなのか、あなたが判断するのをお手伝いさせていただきます。これからこの二つの作用機序や、その適応、そして注意するべき点について見ていきましょう。

寒冷療法って何?どんな効果があるの?

寒冷療法は、アイシング、コールドセラピー、又は凍結療法とも呼ばれ、水や氷等、冷たい物を治療目的で使用することです。それには、以下のものが挙げられます。

・アイスバス(水風呂)

・アイスパック

・アイスマッサージ

Extreme Physiology & Medicine にて発表された研究によると、コールドセラピーは組織の温度と細胞の腫れを抑える事で、血管収縮を引き起こして血の流れ方を変化させます。それにより、ダメージを受けた部位への血流が減少し、炎症と、その組織の損傷の進行を抑えます。更に、コールドセラピーは組織を麻痺させることで、痛みを感じにくくしてくれます。

Scandinavian Journal of Medicine &Science in Sports に掲載された研究論文では、スポーツ医学において、急性の軟部組織損傷の治療と、回復時間短縮のためにコールドセラピーが頻繁に用いられていると述べられており、以下の状況にて有効に作用するとしています。

・ランナー膝(腸脛靭帯炎)

・腱鞘炎

・捻挫

・関節炎から来る痛み

・腰痛

・膝関節置換術後の痛み

・再建手術後の治療

ただしこの研究論文は、コールドセラピーの使用をどんな場合でも推奨しているわけではありません。医師や理学療法士等、専門家とよく相談をし、コールドセラピーがあなたの現在の状態に適した治療法かどうか判断するのが良いでしょう。

アイシング
アイスマッサージ
アイスバス
ホットパック
ホットストーン
遠赤外線治療

温熱療法って何?どんな効果があるの?

温熱療法は、ヒートセラピーとも呼ばれ、身体の傷んだ組織、関節や筋肉に温熱を当てる治療法です。ヒートセラピーには以下のものがあります。

・湿熱

・ホットパック 

・加熱パッド 

温熱は筋肉のこわばりに伴う痛みを軽減することが示唆されています。Postgraduate Medicine にて発表された研究論文によると、ヒートセラピーはその箇所の血流を増加させ、組織の弾力性の改善効果が示唆されています。それにより、疼痛の緩和効果や、こわばりの軽減が期待できます。

ヒートセラピーは以下のような状態によく使用されます。

・慢性の筋肉の凝りやこわばり

・関節炎

・腱鞘炎

・捻挫、肉離れ

Sports Medicine 誌にて発表された研究では、ヒートセラピーが運動のウォームアップ時に特に有効であると述べられています。温熱をウォームアップ時に使用することで、本格的に運動を開始するまでの移行期に、筋肉とコア体温の温度保持を助けるとしています。更に、ヒートセラピーは、アスリートの筋肉痛やけいれんを軽減し、柔軟性を高める可能性も示唆されています。

いくつかの研究結果は温熱の使用を勧めていますが、こちらも決定的な結論は出されていません。例えば、Archives of Physical Medicine and Rehabilitation に掲載された研究では、腰痛のある患者を対象に、低温の温熱ラップを継続して使用したグループと、使用しなかったグループにての比較が行われました。その結果、低温の温熱ラップを使用したグループは、使用しなかったグループよりも痛みが少なかったと報告されました。しかしこの研究では、温熱療法の効果は、その温熱が組織のどの深さまで作用したか、に大きく関係している可能性があるとしています。

結論

温熱、寒冷療法は、一般的には安全な療法といえますが、皮膚を傷めないよう、いくつか注意する点があります。

Johns Hopkins Medicine は、コールドセラピーで氷を使用する際、皮膚のダメージを防ぐため、氷を直接肌に当てず、薄いタオルなどに包んだ上で、10-20分程度の短時間、一日数回の使用を勧めています。

またヒートセラピーでは、その温度と時間に注意を払う必要があります。過度の熱は皮膚にダメージを与え、状態の悪化を招く恐れがあります。

 

以下に、温熱、寒冷療法を使用する際の一般的な注意点を挙げます。

・開いている傷(開放創)には、どちらの療法も使用しないでください。

・血行不良がある人は、医師の指示がない限り、寒冷療法を使用しないでください。

・傷口が膿んでいる、または感染が疑われる場合は、医師の指示がない限り、温熱療法は使用しないでください。

・神経や感覚に障害をお持ちの方は、温感が鈍っている可能性があるため、温熱、寒冷どちらの療法を使用する際にも、細心の注意が必要です。

 

温熱、寒冷療法は、ケガの手当として一般的に使われていますが、そのどちらを、いつ使用するのが最善かについては、今も専門家の中で意見が分かれています。例えば、World Journal of Clinical Cases に掲載された論文では、コールドセラピーなどの炎症を抑える療法は、そもそも回復に必要である炎症さへも抑えてしまうので、ケガの回復を遅らせる可能性があるとしています。ヒートセラピーについては、短期的な痛みの緩和に役立つ可能性がありますが、その全体的な効果そのものについては更なる研究が必要だとされています。

コールドセラピーとヒートセラピーの利点、リスク、そしてその限界を知った上で、必要に応じて、あなたのケガの状態を良く知る医師や、理学療法士など、専門家の意見を聞くことがベストな選択と言えるでしょう。

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