膝蓋大腿関節炎 (Patellofemoral pain; 以下PFP) とは、荷重した状態で膝の曲げ伸ばしをしたときに、膝の前、膝のお皿(膝蓋骨)の裏側や、その周りに現れる痛みの総称です。PFPは、アスリートや活発な10代、高齢者、肉体労働の多い仕事を行う人によく見られます。男性より女性に多く、米国のスポーツ整形では、およそ40%の膝の怪我がこれに属すると言われています。PFPは同じ動きを繰り返すようなスポーツ、特にバスケットボール、バレーボール、ランニング、サッカーなどによく見られます。PFPは、膝蓋骨の動きに影響する大腿四頭筋群の筋力不足や、膝が耐えられない程の急な運動量の増加によって起こるという研究報告がなされています。
症状
以下の条件で膝の痛みがある方は、PFPの可能性があります。
- 階段や丘などの登り下り
- 運動中
- スクワットや深くしゃがみこんだ時
- 平らでない道を歩いている時
- 運動時に痛みがあっても、動かなければ痛みがない
- 長時間椅子に座っていたり膝を曲げた状態にした後
診断/評価
PFPの診断には、その他の膝の痛みを誘発する障害の可能性を排除するため、怪我の既往歴や、膝、股関節、足関節などの動きを見ることが重要になります。PFPは、そのほとんどが症状によって診断され、画像による診断は多くの場合必要とされません。しかし、もし近日に事故にあった場合や、脱臼や手術、関節の腫れや骨折の可能性のある場合、または数週間の保存的治療で改善が見られない場合などでは、画像診断が必要とされることがあります。
診断の際には以下の項目を確認し評価していきます。
- 外観
- ほとんど腫脹はみられない
- 触診
- 膝蓋骨の周りに痛みがある
- 可動域
- 可動域に制限はあまりみられないが、屈曲時に痛みが起こることがある
- スペシャルテスト
- “Eccentric step test”: (+)= 膝の痛み
- “Lateral step down test”: (+)= 膝の痛み
- “Single leg squat test”: (+)= 膝の痛み
- “VMO coordination test”: (+)= VMO筋力不足
- “Waldron’s test”: (+)= 膝の軋音、痛み
- リスク因子
- 以下はPFPを引き起こす可能性のある要因です。診断の際には上記のテスト以外にもこれらの問題があるかどうかを確認していきます。
- 股関節筋群の機能不全
- 体幹筋の筋力不足
- 筋緊張、タイトネス
- 過剰な足の回内
- 膝蓋骨のアライメント不良
- 以下はPFPを引き起こす可能性のある要因です。診断の際には上記のテスト以外にもこれらの問題があるかどうかを確認していきます。
治療法
PFPが発生するには多くの要因が関与するため、臨床的な治療アプローチは個別に合わせたそれぞれのリスク要因に寄与するものを考慮していく必要があります。
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- 安静と活動制限、調整
- 筋力強化エクササイズとストレッチ;股関節や膝関節周りの筋力強化と、膝まわりの腱や関節自体の強化をすることで痛みを緩和する。特に大腿内側広筋、股関節外転、外旋筋群と体幹筋群の強化から見直していく。また、ストレッチで関節筋群のバランスを整える。
- テーピング、ブレース;テーピングやブレースは、膝蓋骨の動きを外的にサポートすることで痛みを緩和するのには有効だが、解消にはならない。エクササイズと併用することで効果が得られる。
- インソール/中敷;テーピングと同じく外的なサポートによる痛みの緩和を目的とするが、インソールは足関節の動きを変えることで膝の動きをサポートする。
- コーディネーショントレーニング;階段の上り下り、スクワット、ランニングやジャンピングなどにて、股関節と膝の動作パターンを正しく保持、コントロールできるようトレーニングすることで痛みを緩和する。
- クロストレーニング;普段とは違った動きをするスポーツや運動をすることによって、アクティブでいながら痛みの緩和を促し、最終的に自分の選ぶスポーツに復帰していく。
- 手術;他の治療法がうまくいかなかった場合、もしくは深刻なアライメント不良がある場合に行うこともある。
- その他の治療;痛みが引くまでの安静、ドライニードリング、カッピング、超音波、レーザー、電気治療など、受身的な治療だけでは完治には至りませんが、これらは運動療法と組み合わせていくことで、相乗効果を得られます。
競技復帰
急性の怪我の場合、初期段階の安静は組織の治癒と症状の緩和を促します。慢性障害の場合、身体の生理的反応により日常生活でも痛みの閾値を超えてしまうこともあります。この状態は競技復帰までかなりのケアが必要で、患者本人が痛みを最小限に抑えるような負荷のかけ方を練習する必要があります。
リハビリの際、比較的効果的とされているのは、膝の伸展エクササイズ、スクワット、ステーショナリーバイク、静的大腿四頭筋エクササイズ(スクワットホールドなど)、動的レッグレイズ、レッグプレス、ステップアップ/ダウンなどによる筋力強化です。
現在研究で発表されているのは、上記のエクササイズなどを6週間以上、2−4セット×10回以上、毎日行うことを推奨しています。
さらに膝蓋大腿関節にかかる生体運動学的ストレスを考慮した際、膝関節の屈曲は90−45°と0−45°の角度内で行うことが推奨されています。
競技復帰には以下の条件を満たす必要があります。
- 腫れがないこと
- スクワット、階段の上り下りなどで痛みがないこと
- 大腿内側広筋の筋力が十分であること
- ハムストリングの柔軟性が十分であること
- 歩行動作が適切であること
- 体幹の筋力が十分で安定していること
- ファンクショナルテスト(垂直跳び、ランジ、ステップダウン、シングルレッグプレス、バランステストなど)で良いパフォーマンスができること
- スポーツ特有の動きがきちんとできること(ディフェンスなどの反応する動きも含め)
- 精神的に競技復帰できる準備ができていて、自信があること
予防
予防として勧められていることは
- 大腿筋の筋力を維持していくこと
- 適度な運動習慣を心がけていくこと
- 一つの動きを繰り返すような運動ばかりでなく、違った動きをする運動にも参加していくこと
現在報告されている研究では、年齢、身長、体重や足のアライメントはあまりPFPのリスク要因とは関連がないとされていて、さらに外板膝(X脚)の人でもリスクはないとされています。すなわち静的なアライメントよりも動的なアライメント不良により引き起こされることが多いため、エクササイズによる予防、治療が最も効果的であると考えられます。
~ Reference ~
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GUIDE: Physical therapy guide to patellofemoral pain. Choose PT. https://www.choosept.com/guide/physical-therapy-guide-patellofemoral-pain. Published November 27, 2019. Accessed October 5, 2022.
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Petersen W, Rembitzki I, Liebau C. Patellofemoral pain in athletes. Open Access J Sports Med. 2017 Jun 12;8:143-154. doi: 10.2147/OAJSM.S133406. PMID: 28652829; PMCID: PMC5476763.